【The same view〜あなたとの約束〜】

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私たちは付き合い始めて5年になる。私はカメラアシスタント。彼は身長188センチで芸能人。誰にも言えない恋。 「カイト。」 「ん?」 「明日の準備できた?」 「うん…まだ…笑。」 「は?持っていく物とかどうすんの?今から私も手伝うから…。」 「大丈夫だよ…。」 そう言って、抱きついてきた。 「ちょっ…何やってんの?」 「ん?良いこと♡」 「そんなことしてる場合じゃないよ〜。」 「だって撮影行ったら同じ部屋じゃ無いし、堂々とイチャイチャできなくなるし…今のうちに温もり感じとかないと。」 「もぉー!!だめ!荷物の準備して!」 「わかったわかった。荷物の準備するから…。」 「私明日はカイト達よりも1便早めのに乗ることになってるから。」 「そうなの?聞いてなかった…。」 「準備に忙しくて伝えるの忘れてた。ごめんね…。」 「いいよ、謝ることない。お前も忙しいのわかってるし…。」 「うん…。」 「んじゃ、明日の朝は俺が見送りだな。」 「いいよ…。」 「たまには見送らせてよ。いつも見送られるばっかだし。」 「カイトも自分の朝の支度あるでしょ?」 「ん?ないよ。朝、お前と起きて、飯食って、迎えが来るの待つだけだし。」 「朝ごはん作る時間ないかも…。」 「俺が作れば良いじゃん。」 「うん、ありがと…。」 「よし!準備終了!っと…寝ますか?」 「うん…。」 カイトが待つベッドに入ると、いつものように腕枕をしてくれて…いつものように抱きしめてくれる。 <優しい…優しすぎるんだよカイト…。> チチチッチチチッチチチッ いつもなら私の隣で寝ているはずのカイトがいなかった。その代わりにコーヒーのいい香りが鼻をくすぐる。 「おはよう。」 「お!起きた?」 「うん。」 「顔洗ってきな。」 「うん。」 顔を洗って戻るとテーブルの上にはコーヒーとサラダ、目玉焼き、ソーセージ、パンが並んでいた。 「カイトが全部作ってくれたの?」 「ほら、時間ないんだから、座って…食うぞ。」 頭ボッサボサのまま作ってくれて、私を気遣ってくれる…。 「ありがと。いただきます。」 朝食を食べながらお互いのスケジュールの確認をした。 カイトは写真集の撮影が詰まっていた。間で契約しているブランドのショーに参加。 私はカイトを撮ってるカメラマンのアシスタント。ただそれだけ…。現地で機材の手入れをしたり雑用したり…。 「行ってきます。」 「行ってらっしゃい。」 ん…ちゅッ 「後から追いかける。」 「うん…。」 <追いかけてるのは私の方だよ。もう私たちは同じ場所に立ってないんだよ。いい加減気づいてよ…。> 「お疲れ様です。」 空港で機材の最終チェックをし荷物を預ける。向こうで調達できるモノは調達。私の役目だ…。 カメラマン「さ!出発するぞ!」 「はい。」 カメラマン「向こうでもカイトさんのいい写真撮れるようフォロー頼んだぞ!」 「はい。」 飛行機は離陸。 <私の心もカイトから離陸しないとな…。> 現地に到着して3時間後にカイトが到着。 スタッフ「カイトさん入りまーす。」 「お疲れ様です。宜しくお願いします。」 今日は外での撮影。カイトの撮影がどんどん進む。私はレンズの準備したりカメラの準備をしたり。 途中休憩が入るとその間に機材のチェンジで車に戻る。 「お疲れ…。」 振り返るとカイトが立っていた。 「お疲れ様です。」 「持とうか?」 「大丈夫ですよ。これくらい持てますから…。」 スタッフ「カイトさーん…チェックお願いします。」 「呼んでますよ。」 「うん、行く…。」 よそよそしい敬語。使い分けにも慣れた。 うだるような暑さの中での撮影…機材が熱くならないようにパラソルを立てたり…扇風機を回したり…。 カメラマン「発電機の予備って…まだあるっけ?」 「あります。」 カメラマン「ごめん、持って来れる?」 「はい。」 発電機を取りに車に戻る。汗だくで発電機を両手に持ち走った。 カメラマン「ありがと。1台はこっちのコンセントを繋いで…。」 大型扇風機4台がフル稼働する。その後も機材の熱を確認しながらの撮影。 私はレンズ交換のため機材置き場に戻った。 <扇風機…熱風だ…。> カメラのレンズ交換をしていると… 「危ない!!」 へ?…顔を上げた時には既に遅かった。 頭に衝撃が走り倒れた。激痛が走ったのは頭だけじゃなく足もだった…。 「大丈夫か?」 周りが騒がしい。扇風機どけろ!と叫ぶ声。私の名前を呼ぶ声。足にかかる負荷が無くなって身体が浮いた。 「病院行くぞ。」 カイトの声だった。 「大丈夫。少し痛いだけだから。」 「うん、黙ってろ。」 「撮影して。迷惑かけたくないの…。」 「お前は悪くない。今日はもう撮影無しだ。心配するな…。」 「皆んなが変に思うから…。」 「カイト!神対応!ってタイトルで…ネットニュースに載せるってよ…笑。」 そのまま車で病院に運ばれ、頭は縫うほどではないものの切れていた。脚は骨折。 アシスタントの仕事ができなくなり、帰国予定日まで1人ホテルで待機することになった。 スタッフが扇風機のコンセントに足を引っ掛けたことが原因だったみたいだけど怪我から5日経っても全く使い物にならない自分が情けなかった…。 <何しに来たんだろ…私…。> ピンポーン カイトだった…。 「気分はどう?」 「あんまり良くない。ココに来ちゃダメだよ。」 「ちょっと散歩行かないか?」 「人に見られたらマズイよ…。」 「裏口教えてもらったんだ。そこから出れば誰にも見つからないし。」 「………。」 「な?行こ?気分転換は必要だぞ。」 「わかった。」 カイトに裏口に先に言ってるようお願いし、私は松葉杖でカイトが待ってる場所へ向かった。 「お待たせ…。」 「おう!ほら乗れ」 カイトは私に背中を向けて膝まづいた。 「松葉杖があるから大丈夫よ。」 「あ…そっか…松葉杖は…ココに置いて行こう。」 「へ?何処に行く気なの?」 「とりあえず俺に乗れ。」 全く何を考えているのか?わからない。でも、言われるがままカイトの背中に乗った。 「タクシー待たせてあるから。」 「タクシーに乗るの?遠いの?」 「そんなに遠くないよ。」 何処に行くとも言わずにタクシーは出発した。着いた所は普通のビーチ。 「ほら…おんぶ。」 私はカイトの背中に負ぶさった。 「ねぇ〜海に行くの?」 「ん〜?違う…。」 「何処?」 「着いてからのお楽しみ♫」 ビーチに背中を向けて反対方向へ進む。少しずつ道が山道みたいになってきて…私を背負ったままでは歩くのも大変な感じなのに、更に登りが続く。カイトの息も荒くなってきた。 「ね〜無理しないで。」 「無理じゃない。」 「どうしたの?怪我とかしたら大変だよ?」 「ハァハァ…なぁ〜?」 「ん?」 「お前と俺…今、同じ景色見てるか?」 カイトの言ってることがわかった。5年前に2人で約束したこと。どんな事があっても同じ景色を見ようと。 <気づいてたんだ…。> 「5年前とは状況変わったでしょ?カイトは少しずつ自分の夢を叶えてきたし、これからも必ず叶える。私は歳を重ねただけで5年前と何も変わってない。きっと…これからも…。」 「諦めなければ…ハァハァ。」 「もう私40過ぎちゃったんだよ?諦める事も考えないといけない歳だよ…。」 「ハァハァ…お前が諦めようが続けようが…それは…ハァハァ…お前が決めたら良い。でも…ずっとお前と同じモノを見ていきたい…うわっっ。」 「きゃっっカイトもう良いよ!帰ろ?」 「ダメだ…。」 「でも…転んだら危ないよ。」 「俺は諦めない。というか…諦めたくない。お前と同じモンを見たい…。」 「…………。」 カイトはどんどん進んでいく。まるで5年間のカイトのように。違う事といえば…今、私はカイトと一緒に進んでるってこと…。 「着いたーーー!!」 「うわ〜。」 雑木林を抜けると、そこにはコバルトブルーとネイビーブルーに別れた空と海が広がっていた。 「見えるか?」 「うん。キレイ…。」 ヒョイっと私を背負い直してカイトの顔の横に私の顔が並んだ… 「カイト…。」 「ん?」 「カイトって…いつもこんな風に見えてるの?」 「何が?」 「遠くの景色まで見えてる。」 「背が高いからね…笑。」 「そうじゃなくて…。」 「ん?どうした?」 「この5年間、私は目の前の事をこなすのに精一杯で、1年先の事すら考える余裕がなかった。でもカイトはずっと先まで見てたんだね…。」 「そうだな。その先には必ずお前も一緒だけどな…笑。」 「そのセリフ…クサイ…笑。」 「カッコイイだろ?」 「カッコ悪い…笑。」 「降ろすぞ!」 「いいよ。たまには私の目線から景色見たら?」 「お!それもそうだな…。」 私をゆっくり背中から降ろし地べたにあぐらをかいて、私を膝の中に収める。私の肩に顎を乗せ二人で遠くを見つめた…。 「たまには…こうしてお前の目線で見るのも必要だな。」 「メチャメチャ視界が低いし狭いでしょ?」 「でも、細かいとこまで良く見える。なぁ〜カメラもう少し続けてみないか?」 「この景色見たら撮りたくなったな…。」 「俺の事は?」 「そのうちね…笑…カイトありがとう。」 「これからも一緒に見て行こうな。」 「うん。」 後ろから強く抱きしめてくれた。ヒゲがくすぐったい。 <ん?…。> 「ちょっと!何処触ってんのよ!」 「いいじゃん♡」 「コラ!」 「あははは…笑。」 カイトとまた同じ景色が見れるようになって良かった。これからも2人で同じ景色を見ていこうね。 完
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