月夜に街、よみがえりて

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 木の影を潜り抜ける度、狸の姿は変化していく。体毛は消え、四つ脚ではなく二本足で駆け、背丈は半分ほどに縮み、獣の顔つきは人のそれへと変わり、身には青い甚平を纏い、最後に尻尾が煙のように消える。男の近くの茂みに潜む頃には、眠たげな垂れ目の少年へと変わっていた。  こっそりと茂みから顔を出し、様子を伺う。  久々の人間は、少年と呼ぶには背格好が高く、青年と呼ぶには、声も顔も幼い印象の男だった。  男は、道に迷っているようだった。あちこちを見回して、悩ましげなため息をつく。 「参ったな……夜明けには戻らなきゃいけないのに……」  ポツリと呟く声は、誰に向けたものでもなかったのだろうが、これ幸いと、狸は返事を寄越した。 「なんだいあんた、道に迷ったのかい?」  予想だにしない返事に驚いた男が振り返る。跳ねるように茂みから飛び出し、狸は男の前に着地した。 「こんな所に客人が来るなんて珍しい。一体なんの用だい」 「あぁ……えっと、ちょっと、行きたいところがあって」 「こんな山の中に?」 「昔、この辺りに住んでいたんだ。今日は彼岸だから、久々に里帰りでも、と思ったんだけど……君は、この辺の子かい?」 「あぁ、そんなところだ。しかし、昔住んでいた、ねぇ……」  男の言葉に少し引っかかった。狸の知る街は、人が住まなくなってから既に百年以上は経っている。あるいは、他に街が近くにあったのだろうか。 「にしても、儂は結構長い事ここにいるが、あんたのことは見覚えが……」 「儂?」 「うおっほん! 俺、俺な! ……そ、そうだ、道に迷ったなら、俺達のところへ来るといい! な、こんな夜中に山の中を歩き回るものじゃあない、ほら、行こう!」
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