一、北の地にて 1

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一、北の地にて 1

 走る足音が街灯だけの道に響く。  空には月もなく、路面は昼間降った雨で濡れていた。  その中を男は必死に駆けていた。  荒い息の中、ときおり後ろを振り返る。しかし、後ろには男の影以外には見えない。それを確認すると男はまたスピードを上げて走り始めた。  あと100メートルも走れば、交番がある。そこに駆け込めば安心だ。  男は自分を鼓舞しながら重い足に鞭をいれた。  その甲斐あって、男の目に交番の灯りが届いた。  胸のうちに安堵感が広がる。  一度立ち止まり、息を整え、改めて交番に一歩踏み出そうとした時だった。  黒い影が横合いから男を抱え、口と両手を押さえた。  男は声も立てられず、闇に染まった横道に連れて行かれた。  数分後、街灯もない小さな公園に3つの人影が立っていた。足元にはさっきの男が横たわっている。  「殺したのか?」  影のひとつが口を聞いた。  「いや、気絶しているだけだ。」  別の影がそれに答えた。  もう一つの影は横たわる男のポケットというポケットを探っている。そして、携帯電話を探し当てた。  「調べてみろ。」  それを見せられた影が命令した。
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