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店の中は、ちょうど客が引けたところで、誰もいない。カウンターの中ではママが後片付けに追われていた。
「これ?」
奈美はその小さな箱を目の高さに持ち上げて、若い娘に見せた。
「きれいな箱ね。」
「寄木細工っていうのよ。」
「寄木細工?」
「箱根の伝統工芸品でけっこう有名なのよ。」
奈美は微笑みながら女の子に説明した。
「買ったの?」
「ううん、プレゼント。」
「へえ、だれから?」
女の子の問いに奈美は笑顔を見せるだけで答えなかった。
「瀬上ちゃんからのプレゼントよね。」
ママがカウンター越しに、奈美のかわりに答えた。
「へえ、いいなあ。ルナもプレゼントくれる彼氏ほしい。」
ルナと自ら名乗った女の子は、奈美の小さな小箱を、羨ましそうに眺めながらため息をついた。
「そんなんじゃあないのよ。」
奈美は笑いながら瀬上のことを否定して、小箱をカウンターの上に置いた。それをルナが取り上げ、軽く振る。
「なにか入っている。」
「なにが入っているの?」
ルナの言葉を継いで、ママが奈美に聞いた。
「知らない。開け方がわからないから。」
「え、開かないの、この箱。」
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