一、北の地にて 1

6/6
前へ
/793ページ
次へ
 そう答えて奈美は、立ち上がってカウンターの中に入ると、ママの手伝いを始めた。  「いいなあ。ねえねえ、彼氏と?」  ルナが好奇心丸出しで尋ねた。  「ばかね。リエちゃんはお兄さんの命日で行くのよ。当然、一人よ。」  ママが怒ったように言うと、ルナは舌を出してテーブルを片付け始めた。それを見て奈美が笑った。  「今日はもう店じまいしましょう。リエちゃん、看板しまってくれる?」  「はい。」  奈美は言われるまま外に出て、看板のコンセントを抜いた。そのとき、奈美の肌が、こちらに向けられる視線を感じ取った。  奈美の目がその方向に動く。  路地の奥の方で、物陰に隠れる人影を捕らえる。  (見張り?)  疑惑を持ったまま奈美は、看板を店の中に入れた。
/793ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加