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「絶っっ対に、嫌です。アーロン様だなんて。いけすかないと評判で、たくさんの女性を泣かせているのだとか……!」
「ただのいけすかない男じゃない。あの若さで魔術師団長だ。地位も収入もある上に、見た目も良い。女性を泣かせているのは縁談も告白も片っ端から断り倒して全部蹴落としているからだ。守りが鉄壁過ぎて浮いた噂ひとつない。夫にするには理想的だ」
「なんと言っても、嫌ですよ。魔術師なんて、得体のしれない呪文で戦うだけで、身一つで敵に挑む騎士とは何もかも違いすぎます。私は、自分より腕力がなく、ひ弱な男が無性に嫌なんです。無理です」
「ひ弱どころか、強いぞ。間違いなく歴代最強と言われている」
王立騎士団の団長執務室にて。
副騎士団長となったシェーラは、重厚な執務机に向かって座っている髭面で筋骨隆々とした男性上司に向かって精一杯の反論を繰り広げていた。
しかし、机の上で指を組み合わせてシェーラに目を向けた騎士団長は、はっきりと首を振る。
「嫌でもなんでもこれは仕事上の命令だ。騎士団と魔術師団の仲の悪さは歴代随一。もはや王宮の食堂や宿舎で内戦が始まるのではないかと言われ続けるに至り、陛下から『どうにかしろ』と直々に命が下った。それで私と師団長が話し合った結果、『政略結婚』に落ち着いたわけだ」
「そんなの、長年戦争してきた敵国同士の外交政策じゃないんですから! 結婚で片がつくような問題でもないですよね!?」
「実質、戦争だ。もうこの内戦を終わらせ、かつてのような友好関係を復活させるには他に手はない。まずは見合いだ。行け、シェーラ」
「どうせなら団長、辺境の魔獣討伐にでも行かせてください。そうでなければ、もう私のことは死んだものと思ってください。魔術師団長とのお見合いなんか無理です」
精一杯粘ったが、遠征任務も死亡工作もすべて拒否され、見合いの日取りを言い渡されて退室を促された。
期日は一週間後。「間違えても騎士の正装なんかで行くなよ、きちんと女に見える服装で臨め。もとを正せば伯爵令嬢なんだ、何らかの偽装くらいできるだろ」と、団長はずけずけとシェーラに言った。
(たしかに生まれは伯爵家ですし、「令嬢」らしい装いをすることもありましたけど……。もう立派な行き遅れの二十六歳です。令嬢どころか同年代の友人たちは奥様とかご婦人とか未亡人になっている年代です。「女に見える服装」といっても、見た目だけどうにかしても無理があるでしょう。この筋肉)
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