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「3……2……1……はい!私はたった今大人の仲間入りをしました!ってことで、おじさん良かったね。3秒前の私だったらおじさんが捕まったかもしれないけれど、今の私は大人だからおじさんの望みを叶える事ができると思うよ」
呼気が白く立ち上る寒空の下、山崎莉冬は努めて明るい表情と声を意識して笑った。先程から震えが止まらない。それが寒さからなのか、はたまた違う理由なのかはわからない。
事務服のスカートの下は黒タイツで、上着はダッフルコートのみ。体はとっくに冷え切っていた。
目尻に皺を蓄えた長身の和服の男性は、ぽかんと口を開けて莉冬を見つめる。
「君は、今日が誕生日なのかい?クリスマスが生まれた日だなんて目出度いじゃないか」
「や、えっと……そうなんだけど、私はそういうことが言いたいんじゃなくて……」
「でも、こんな夜中に1人で公園のベンチに座っているのはいただけない。人通りも少ないし、何かあったらどうするんだい?それに……可愛らしいお嬢さんにはこんな寂しい場所は似合わないよ」
冷たい風が莉冬と男性の間を吹き抜ける。深夜0時の公園には2人の他に人の姿はなかった。
駅から程近い公園には、普段なら千鳥足のサラリーマンが歩いているが、今日はクリスマス。多くの人間が温かい家で御馳走やケーキを用意して家族で食卓を囲んでいるのだろう。
莉冬は自分の父親より幾分か年上に見える男性から視線を外すと空を見上げた。空には星が広がり、月が輝いている。
「……仕方ないよ。だって、私には帰る家がないんだから」
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