そんな時代もありました

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――――――と、まぁ、長い前振りは此処までと言う訳で。 「………たまに、思うんだけど、いや、結構前から思ってはいたんだけどさ、」 「何だよ」 「利桜くんって少し変態気味、だよな…」 「は?心外なんだけど」 「よく言うよ…」 利桜の部屋で偶然見つけたアルバムは実に三冊。 もしかして学生時代の利桜が見れるかもしれないとドキドキしながら表紙を開いた忠臣だが、まさに期待外れもいいところ。 そこに載っていたのは全て忠臣だったからだ。 保育園のスモックに身を包む五歳の忠臣から、お遊戯会で踊り狂う五歳、秋の忠臣。 小学校では運動会での忠臣が噂の連写によりパラパラ漫画の様に貼り付けられている。 (……………うわ…) 思わず出た声がこれだ。 正直引いた。いや、引かない訳が無い。 美少年だった利桜が一体どんな顔をしてこれを現像に出し、貼っていたのか。自分が現像する仕事なんてしていたら、これを持って来た見ず知らずの子も被写体の子も心配してしまうレベルだ。 それをあっけらかんと何が悪いと言わんばかりの顔をする利桜も軽い恐怖を感じる。 (でも、な…) これを後生大事に持ってくれていた、と言うのは嬉しい事実。 あんな別れ方をしたにも拘わらず大事にこうして思い出を取ってくれていたなんて、照れ臭くも感じるが矢張りニヤけてしまいそうになる。 二冊目のアルバムを手に取り、覗いたそこにはキョンシー姿の忠臣がこれでもかと言う程にあった。 実にアルバムの半分を占めるそれ。 ハロウィンの時のキョンシー忠臣はいたくお気に召していたらしい。 「すげー量…」 「キョンシーのやつ?可愛いだろ」 いつ撮影したのか、お菓子を持った忠臣にそれをつまんで口へと放る姿。 前へ倣えのポージングはきっと利桜からリクエストされたのであろう、少しだけ照れ臭そうな笑みを浮かべている。 「ちょっと恥ずいわ、やっぱ」 「でもすげー似合ってる。流石は忠臣のお母さんって感じだよな」 そう言われてしまえば悪い気はしない。 矢張り母の手作りを褒められると誇らしい気持ちになると言うのはいつの時代も変わらない。 「まぁ、ハロウィンの話で、流れ的にもちょうどいいか」 「え、何?」 「はいこれ」 これと渡されたのはタブレット。 しかも何かの服が表示されており、冬物でもまとめて購入するのだろうかと思ったものの、よくよくそれを見た忠臣は冬場に作った寒天の如く、その場で固まってしまった。 「流行り物とかあまり興味は無いけど、忠臣とのイベントは楽しみたいって言うか」 「…………いや、何でこんなん」 「俺的におすすめは猫耳としっぽのセットなんだけど」 後々に進めやすいし。 一体何処に進む気だ。 思考的にも物理的にも。 「………俺、もう子供じゃねーんだよ」 「大人だからこそこういうのがまた違った意味で楽しめるんだよ」 でかでかと液晶画面に表示されたのはハロウィン用コスプレと企画バナーがあるページ。 ご丁寧に大人ヴァージョンとギラギラとしたフォントと色合いも付け加えられている。 おすすめと指差されたのは確かに猫耳とふわふわしっぽのセット、有難迷惑にしっぽは鍵しっぽとストレート、選べるタイプ。 他にもぴちっとしたチャイナドレスからスカートの意味を問いたい制服のセット、ナース服もサイズは5Lサイズまで揃えて御座いますとこれまたいらん気遣いまで。 「………普通の、百歩以上譲って普通の…」 「俺は俺だけにしか見せない忠臣のハロウィンコスプレを希望してんだけど」 ぐんっと眼に見えて上がるのは変態性。 加速が過ぎる。 けれど、 「うぅ…じゃ、利桜くんは何着るんだよ」 俺だけの、なんて殺し文句が過ぎる。でも簡単には折れたくはない、変態性への道を進む為、自分でアクセルを踏むなんて事はどうしても躊躇ってしまう。 「俺?」 ふふっと笑う姿が美しい。 何かを企んでいるような表情なのに惹かれずにはいられない。 「中は全裸のミイラ男とか辞めてよね」 「まさか」 ではお菓子を用意してくれるのだろうか、あの頃のように。 それはそれで…いいけれど。 思い出の中の利桜は甘いお菓子で包んでくれた。 大事な思い出。 「俺はね」 「うん…」 「お菓子を用意しないで悪戯されるのを待つ哀れな男の役だよ」 そう、昔とは違うんだから。 終
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