大福とチーズケーキ

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学生達の憩いの時間、昼休みだと言うのにタイミングもよろしく、現在河野は数学教師に呼び出しにあっている。 購買で購入したおにぎりを三口程で食べ終え、デザートとして用意したスティック型のチーズケーキを頬張ると優しい甘みとふんわり香るアーモンドの風味、濃厚なクリームチーズが口内いっぱいに広がり、気分も上昇。 楓が特別に作ってくれたと言うのもあり、心も満たされる。 話を聞くなら今だろう。 「で?どうしたいわけ?」 その勢いのまま、主語も無しに問う十時だが、びくっと肩を揺らした前原にはその意図は通じているらしい。 「だって、なんか、さ」 「うん」 「色々考え過ぎて、たら、」 「何を」 「その、俺ってこんな感じだからさ」 「どんな感じ?」 聞き役に徹する十時からのテンポ良いレスポンス。 それにしどろもどろと考えながら言葉を紡ぐ前原は、しばらく視線を泳がせた後、すとんっと肩の力を落とすと食べかけていたプリンを机の上に置いた。 「普通って、言うか、これと言った取り柄も無くて…。和沙みたいに可愛くも無いし、滝村先輩みたく綺麗でも無くて、内山田みたく強くも無いし、」 「うん?」 「………あの子みたいに積極的でもない…一緒に部活まで出来なくて、その…楽しませる事も出来ないんじゃないかな、って」 「―――――…あ?」 「だってさぁ…めっちゃ楽しそうに先輩笑うし、部活行く前だって張り切ってるし、たまに二人で居る時だってスマホに連絡入ると嬉しそうで、」 そこまで言い切ると、ぐっと何かが詰まった様に言葉を詰まらせた後、ほんの少しだけむぅぅっと唇を尖らせ、 「俺といるより、楽しそうに見えるんだよ…」 ぽつりとそう呟いた前原の瞼が伏せられる。 あの子、が誰かなんて愚問だ。 (―――…あー…つまりは、) 「ヤキモチ、って事?」 「…………」 どうやらビンゴと言うか、聞けば納得、見て分かる。 もう答えは最初から本人も自覚していたらしい。 チーズケーキを食べ終え、ふぅんっと斜め上を見上げた十時の脳内に浮かび上がるのはいつぞやの自分。 「俺だって、くだらないと思うし、川添先輩を困らせたくないって思うけど、何か思ってる事とやりたい事が違うって言うか、上手く動けない、言えないんだよー…」 うぅっと前原が身体を屈め、机に額を当てる。 「その上、和沙が勝手に先輩追い返しちゃうし、そしたらそこから全然先輩も来てくれないし、何で連絡もしてくれないんだとか、もしかして嫌われた?とか、もう色々感情がごちゃ混ぜになって、余計にどうしたらいいのか分かんねーんだって」 「…………まー…何だ、あれだな」 机に突っ伏した前原の旋毛を眺める十時はぼりぼりと頭を掻いた。 はっきり言って何かアドバイス出来るような立場ではない。出来る程に経験豊富でも無い。 けれど、前原とダブる過去の自分の姿。 『あんたに関係無いでしょうーがっ!!!』 『チーズケーキだってもう、いらんわっ!!食いたくもないっ!!』 好きだと自覚したのに、楓に投げかけたのは心にもない言葉。 自分も傷付いたのだから、相手にも同じだけの傷を負わせたいと思った事実。 この傷を分かって欲しいと自分勝手なワガママ。 でも、それは、通過点のひとつと言うか。 「恋愛あるある、みたいなやつだろ」 「……あるある?」 「語尾を上げるな、似非中国人か」 洩れる溜め息と苦笑い。 そう、結局この二人に必要なのは――――――… * ガタっと勢い良く音を立て、椅子を倒し立ち上がった川添に一気に注目が向けられる。 「や、やべ…っ」 スマホを持った侭、固まるデカい男は赤い顔。 ふるふると震え、眼をキラキラさせるも当たり前だが可愛くもない。 「ちょ、前原が連絡くれたっ…!!今日話したいって、ごめんなさい、って、」 「あー別れ話からの謝罪ってこと?」 「違うわっ!!!!」 ハイなテンションを文字通りに灰にしてやろうかと言わんばかりの楓の言葉に、ぐわっと肩を怒らせる川添だがまた振動したスマホを光の速さで覗き込むと、その強張っていた顔をすぐにふにゃりと和らげた。 「……やばー…先輩の部屋に行ってもいいですか、だって…二人きりがいいって、」 「ふぅん」 確かに嫌いな奴の部屋に行こうとは思わないだろう。 となると、どうやらまだ前原の気持ちはきちんと川添に向いていると言う事になる。 弾む心情のままに、にやにやと緩みきった顔で返信を送る幼馴染に、眼鏡を持ち上げた楓の口元も、こっそりと持ち上がった。 * ちゅっと何度となく向けられた唇にそれを合わせ、ほんのりと蒸気した頬に指が滑らされる。 「へぇ、やっぱ十時がアドバイスしたんだ」 「アドバイスって言うアドバイスじゃないけど、」 キスの合間の会話は普通に照れ臭い。 未だこう言った小技に慣れない十時のぎこちなさは唇からも伝わり、それが益々楓の優越感を膨張させるのだが、これもまた心地良い。 十時の全てを自分だけが知っている、と。 「ちゃんと話し合った方がいい、って。素直な気持ちって相手は意外と分かんないから、って言っただけ」 「十時にしちゃ上出来じゃん」
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