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しかし、この話そんな簡単なモノでは無いらしい。
あれから古参だの信者だのと、少し気になってしまった佑の好奇心はすぐに行動へと。
それに促されるままに慣れないSNSとやらに常葉のアドバイス通りにアカウントを作りログインしていく。
実を言えば前にもアカウントを作ってはいたが、性に合わず辞めていたSNS。久しぶりの画面に文字の羅列。
膨大な情報量にくらっと眩暈がしそうになるも、気になる常葉のファンとやらのアカウントを覗き見る。
ペンネームでもある『TOKIWA』で検索すれば、普通に出てくるサイン会での写真や『めちゃカッコいいー』だの、『アイドル負けてるwww』だの、『大仏の隣の美形wwwww』だの、前回のサイン会は大仏の被り物で挑んだ佑の隣でにこやかに手を振る常盤がずらりと並ぶ。
「うちって…撮影オッケーだったっけ?」
「会場に出て来てる間は大丈夫だって言ってたじゃん」
「そうだっけ?」
「尤も、会場から捌けて仕事が終わってしまえばプライベートなんだけどさ」
そう言われて新たに出された投稿には、テーブルに肘を付きコーヒーを前に誰かと電話をしている常葉の全身画像。
イイ男だ。
自分の恋人だと言う事を贔屓目にしても、自慢したくなるほどにカッコいい。座っていると言うのに足の長さが一目でわかる。
(最近幼さも抜けて、また一皮剥けたよなぁ)
いや、そんな能天気な事を思っている場合では無い。
この常葉がコーヒーを飲んでいる場所、見覚えがある。
「――――…この場所、って」
「そ、佑の前のバイト先」
以前勤めていた喫茶店。
相変わらずマスター夫婦と交流を持ちつつ、それ以上に常盤が意外とあの喫茶店を気に入り、外での待ち合わせ等ではよく利用している場所だがこんな所でイベントをした覚えもなければ雑誌の撮影を行った覚えも無い。
当たり前だがカメラ目線でも無い、その写真。
「…………とー…さつ?」
「そうだろうね」
くすっと笑う常葉とは反対に、ぞくっと背中を震わせる佑の手からはポトリとスマホが落ちた。
*
『まぁ、盗撮とか言っても別にストーカーみたいなもんじゃないみたいだし。ただそう言うプライベートな生写真が裏で高額取引とかされてるみたいでさ。あと勝手にトレカみたいに加工して売ってるとか』
――――えぇ…
顔が良いと言うだけでこんな目に合うなんて。
まさかの被害に今度はどの被り物をしようかなんて、のほほんと考えていた自分の馬鹿さ具合に自然と頭が項垂れる。
今はまだ盗撮程度で済んでいるのかもしれないが、これがエスカレートすればそれこそ本物のストーカーのようになればもっと被害は拡大するのでは?
仕事先に付きまとわれたり、住居を特定されたり、最悪、
「俺との関係が、バレる、とか」
一応外では、いつものベタベタとした『ざ・恋人』の接触は禁止させている。出版社側は別にクリエイターは色々な人が揃っているから気にしないでいいのに、と言ってくれてはいるがそう言う問題ではない。ただのモラルの問題だと佑の固い頭では決意も岩よりもそれだ。
幸い佑自身は顔バレしてはいないものの、いつどこでどんな情報が洩れるか分からないのも多少なり恐怖ではある。
別に攻撃や誹謗中傷されるのが怖い訳では無い。
それによって表立って盾になるのが嫌なのだ。
常葉が。
『大丈夫だってー。俺が目立てば佑は活動の方に集中できるでしょ?俺は結構ノイズがあったって気にしないで出来る方だから』
天才故の宣言はかなりの説得力があるものの、年下の恋人から守られるだけと言うのも如何な物だろうか。
自分だって、何かしてあげたいのに常葉は望まない。
(いや…望まない…訳じゃ、ないけど、)
そう、お強請りは日常茶飯事とでも言うべきか、ワガママなのはその通りなのだが、そう言った意味では無く、強いて言うならば、
―――暗殺者がナイフを持って佑に突進したならば、躊躇なく身を盾にナイフを受け入れそう、と言うか。
暗殺者がそう表立ってやって来る事は無いだろうが、それでも心配してしまうくらい佑は、震えたスマホに気付きそれを持ち上げた。
【ダメだし受けたぁー。ちょっと打ち合わせ長引きそうだから、今日は遅くなるよ】
【あ、でも夕飯は食うからっ!!一緒に】
ぴえんなスタンプ付きのメッセージに、ふふっと苦笑いを浮かべながら、腕まくりする佑の本日の夕食メニューはパスタに決まりだ。
彼の大好物のたらこ、一択だろう。
*
このカフェから見えるビルは矢張り格別だ。
何故なら玄関ホールが良く見える。
そこから出てくる人間も入ってくる人間も、気を付けてみていればすぐに特定できる。
「あ」
数人のスーツ姿の人間の中にひときわ目立つ存在、お目当ての彼が。
やばい、とすぐにお会計を済ませ、わたわたと店を出る。ヒールだと動きにくいからと、最近購入したフラットタイプのシューズは履き心地も抜群な上に走れる、動ける、その上機能性だけでなく見た目も大きなリボンがポイント。カラーバリエーションも色々とあって可愛らしい。
いくら動きたいからってやっぱり可愛くないものは駄目だ。
女子力とか言う問題より以前に自分と言う人間には合わないから。
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