小学生の教科書を参考に

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小学生の教科書を参考に

幼い時より育てた孫と言うのは、既に実の子供同然。 しかも、実子は何処で育て方を間違えたのか、とんでもないクズへと変貌を遂げてしまい、既に年老いた夫婦へと大打撃を与えてくれると言う、なんとも言い難い悔しさに歯軋りしたものだ。 しかし、それは孫に言わせれば、 『じーちゃん達の所為じゃないだろ、それ。未成年の間は親の責任もあるけど、二十歳過ぎたら自分の責任。自由と責任は一緒だって気付かずにクズに就職したみたいなもんだよ』 そんな事をさらりと言ってのけた。 確かに孫を見れば、自分達の育て方は間違ってはいないどころ、胸を張って『自慢の孫ですが、何か』と言えるような男へと成長している。 眼に入れても痛くないと言う表現そのままに最愛の妻もそれはそれは満足そうに最期は、ゆっくりと眼を閉じたのも覚えている。 その後、まさかまた出会いがあるとは思わなかったけれど、妻への愛は変わらず、当の孫からも『リア充って爆発するって知ってた?』なんて言われて照れ臭い思いもしたものだ。 まぁ…尤も、その孫が… 「おい、じーさん鍋用のガスコンロは?」 「ビールは一杯まで。その後の焼酎はお湯割りのみだとさ」 ドンっと目の前のテーブルに一升瓶と勝手知ったる顔で吊り棚から取り出した簡易コンロを置く、まるでスクリーンから出て来たような美丈夫な二人の男。 「………おう、」 (男…と、それも二人…こんな事になるとは思わんかったが…) 「まぁまぁ、本当に桔平くんの彼氏さんは素敵よねぇ。それが二人もいるなんて幸せものだわぁ」 「……そう、だな」 今のパートナーである女性がうふふっと頬を染めながらバシバシと背中を叩いてくれるのを何とも言えない渋い顔をしてしまうのは仕方ない事なのかもしれない。 * どうやら新居を建設中らしく、本日は泊りがけでご挨拶と言うものにやって来た孫含む婿殿二人。 「新築じゃないけど、いい感じにリフォームされてて。出来上がったらじーちゃん達も来てな」 卵が足りなかったと脱兎の勢いで近くのスーパーで孫が購入してくれた卵が旨い。 出来上がったすき焼きをこんなに大人数で食べる夕食なんて数十年振りだ。 「いいわね、リフォーム。お邪魔してもいいのかしら?」 「勿論。客間もあるし、バリアフリーが殆どだから」 少女の様に頬を赤らめて、口元を押さえながら眼を細める祖父のパートナーでもあるワコは楽しみだといわんばかりにほくほくと肩を動かすのが、可愛らしく見える。 「お前等そんな余裕あるのか?ちゃんと考えての事だろうな?」 けれど、おじいちゃんは心配性。 眉を潜める祖父は孫の将来にそれなりの不安を持っていない訳が無い。大体普通に考えれば自分が死ねば頼れる保護者は居なくなるうえに、あの愚息が何か役に立つとも思えない。精々生命保険を掛けれるくらいだろう。 「大丈夫だって。そこらは俺等がちゃんと管理してるし」 にやっと笑う新名は鍋にうどんを投入。 「俺らがきっぺーに負担なんて掛けさせる訳が無いだろ」 焼酎とお湯、6:4で割られたグラスを渡す東伊の声にも嘘や誤魔化しは見えない。 「――なるほど」 A5等級和牛ももすき焼肉は、ぱくりと頬張るとすぐに口内で消えた。 幸せなのだろうと言うのは三人の雰囲気だけで、見て分かると言うもの。 男同士だからだとか、三人での生活だとか、そんな事はどうでもいい。 (バカ息子とは比べ物にならないくらいに良い人生を歩んで貰いたい) 幼い時より我慢をさせる事が多かったが、それでも桔平は文句ひとつ言わずに己の生まれた環境を冷静に受け止め、客観視していたように思える。 母親だけでもいれば、と何度か思った事はあるが、これはこれで良かったのだろう。 タラレバの話なんて愚問だと本人も笑っていた。 そう、今が、未来が、彼等の進む道が朗らかであれば、それで良い。 ―――――なんて、思いながら眠りに付いた次の日。 行き成りが過ぎるとは、この事だ。 「――――――は?」 「お義父さま、おはようございます」 日曜日の早朝八時。 ピンポンと鳴った玄関へと、へいへいなんて軽口を叩きながら出迎えた先には見覚えのある女性が一人。 ラフな格好だがすらりと伸びた姿勢と真っ直ぐに向けられた視線。 一瞬誰だ、勧誘?新聞なら間に合ってるし、宗教ならば問題外。 うちはクリスマスもやらん浄土真宗だとお断り一択だ。 しかし、去年クリスマス時に桔平からプレゼントされたカーディガンを羽織り、ぽかんと女を見遣る初喜の顔がゆっくりと曇り出す。 「あ、あんた…」 「お久しぶりです。だいぶご無沙汰しておりましたがお元気そうで」 思っても居ない事をさらりと告げる抑揚の無いその語り口。 少しだけ上げた口角はただうわべのモノ。それらが見て分かる、感じ取れる特徴的なその女性。 「り、りりこ、さん?」 「そうです。本日は桔平に会いに参りました」 まさかの、このタイミングでかよ。 そう思わずには居られない初喜の後ろから、 「じーちゃん?誰?」 「―――……」 お前もこのタイミングで出てくるのかよ。 ツッコミが追い付かない、捌ききれない。 祖父の多少固くなった脳が、みしりと音を立てた様な気がした。
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