小学生の教科書を参考に

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* 母親から貰った養育費。 何故か父親がこっそりと懐に入れていたそれは、桔平の為の桔平だけの金。 だがそれは裏を返せば祖父母が出し換えてくれていただけだと判断した桔平は受け取った封筒そのまま初喜へとスライド。 今迄年金や貯金で桔平を育ててくれたのだ、返金は当たり前だと言う見解の孫と何を言っている親だっつったのはお前だろう、親が子供に金を掛けるのは当たり前だと言い張る祖父は真向からぶつかり稽古となったしまった。 と、言う訳で―――。 「きっちり折半した訳か」 「まぁ…一応だけど」 両者何となく納得いかずなのは似た者同士だと笑うトイに、むぅっと唇を尖らせる桔平だがあの父親が慌てたであろう事態だったと言う事には多少スカッとしたと感じる。 (母親にも会えたし) 正直母親に未練は無かったものの、会ってみればそれなりに人間はしっかりと出来ていた。ただ家庭と言うものに、母親と言うものに向いていないだけだったのだろう。 「それにしても、お前の親父さんて清々しいくらいにゲスいな」 新名の言葉にも深く頷く。 ちなみにだがあの後父親の後妻からの連絡もあった。 ひたすら謝罪から始まり最後は、元凶の男に対しては定年まで小遣い無しと言う事が家庭内会議で決定したと言うどうでもいい報告まで頂いた。 あんな男でも捨てられないなんて、ここでも需要と供給の不思議は嫁姑問題と並ぶ永遠のテーマなのだろう。 「そう言えば今度の休み、家具を見に行こうと思ってるんだけどさ」 「家具?」 「新居には新しい家具も必要だろ」 そろそろ新居のリフォームも完成を迎える。 その前にこだわりの家具を揃えておきたいらしい二人に挟まれた桔平の眼がきらりと光った。 あまり無駄遣いは押さえたいが、それでも新しい家具家電と言う響きに惹かれない訳が無い。 「三人でゆったり座れるソファ、とか欲しいかも…」 今座っているソファも悪くは無いが平均身長以上ある成人男性が一気に三人座ればそれなりに窮屈感はある。 そのぎゅうぎゅうと密着するのは嫌いではないが、第三者目線で見たら違う意味できつい。 「それはあるな。で、あとベッド。これ必須な」 「あー丈夫なやつ」 「足が強いやつとか」 「激しく当たっても壊れない感じの」 ラグビー部の募集でもするのだろうか。 自分を挟んだ状態で会話する東伊と新名のそれを聞いていないふりを通し、桔平はスマホへと眼を落した。 【土産は蟹といくらの醤油漬けだっ!クールで送るっ】 昨日から趣味のカラオケ仲間と北海道へ旅行に行っている祖父と少年に大志を抱かせたい博士とのツーショット付のメッセージにふはっと笑ってしまう。 もうすぐ出来る新居には、すぐに呼ぼう。 きっとビールやつまみを片手に来てくれる筈だ。 未だ隣ではベッドの希望の話をしていると思ったら、タブレットで通販ページに飛び購入の話にまで進んでいる。 シーツや枕もオーダーで注文しようとしているらしく、手触りがどうたら、質感がこうだと細かい話にまで。 (楽しそう、) 桔平の周りの家族は、皆楽しそうでこちらまで嬉しい。 ―――勿論、此処も。 自分で無く、他人の嬉しそうな姿を見てこんなに心が満たされるなんて知りもしなかった。 三人でずっと一緒に居たい。それこそ教科書に載っても可笑しく無い様な見本のような家族になりたい。 幼い自分の手を取ってくれた二人に何が出来るかなんて考えるだけナンセンスだ。 「まだベッドの話してんの?」 「この際オーダーにしようかな、って」 「寝室バカみたいにデカくしといて良かったわ」 では、もう寝室は彼等に任せよう。きっとこだわって快適な癒しの空間になってくれる事だろう。 ―――若干の不安はあるけれど。 ふぅっと溜め息ひとつ。 「じゃ、俺は新婚旅行先でも考えようかな」 「―――は?」 「――何て、」 東伊、新名の顔が一斉にこちらを向いた瞬間、あははっと声に出して笑ってしまった桔平は今日も楽しい。 また、いつか、もしもの話だけれど、 (会えたら、紹介しようかな) 終
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