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―――こんな時、居たらいいのに、可愛い彼女
(字余り…)
最後の彼女と別れたのはいつだっただろうか。
大学卒業前に彼女をゲットなんて浮かれて、就職して一か月くらいでもう自然消滅みたいになっていた。
仕事が忙しすぎて気に留める暇も無かったが今思えば不誠実だったなぁと思う優斗から溜め息が洩れる。
でも体調が悪いせいか、人恋しさが一層酷いと感じるのは決して気のせいではない。
(彼女居たらなぁ、)
こう言う時連絡したら仕事終わりに家に寄ってくれて、冷えピタだとかで額を冷やしてくれたり、プリンとかゼリーとかも買ってきてくれたりそるのだろうなぁ。
お粥を作ってくれるというのも憧れる。残念ながら今迄の歴代彼女にそんな家庭的な女性が居なかった為か、想像のみだが、アパートの狭いキッチンでそんな後ろ姿を眺めるのも乙だろう。
ベッドから見えるキッチンをぼうっと眺め、そこに立つ女性の幻影を見る。
出るとこ出た洋ナシ体系、髪は長い方が好みだ。
でも顔が清楚系だったら、もっと良い。ナチュラルメイクで、はにかんだ笑顔が可愛くて、
『ちゃんとまともなモン食べなさいって言ってるでしょっ!!!』
――――――ビク…っ!!!!
寝入りばなに高い所から落ちたようなあるあるのそれ。
身体がびくっと痙攣し、心臓から一気に血流が体内に流れ込んだかの様にドクドクと耳元から音がする。
(び、びっくり、した…)
頭の中でうとうとと可愛い女の子がご飯を作っている姿を想像していた筈なのに、いきなり割り込んできた上腕二頭筋。
いや、逞しい腕で大盛り白米をこちらへと向けてくるバッチリメイクの安達だ。
何故にいきなり彼の登場だったのか自分自身分からなかったが何とも言い難い衝撃はあの外見の強さだけではないのだろう。
「…………熱下がったら、行こう」
すんっと鼻を鳴らし、布団へと潜り込んだ優斗は意識を失う様に眠りに入った。
*
聞こえてくる機械音に無意識に手を伸ばし、矢張り無意識に画面をタップ。
「もしもし…」
『寝てたの?』
聞こえて来たのは友人の声だ。
「うん…」
短い返事だけを返せば、訝し気な声がまた聞こえる。
『もう夜になるっつーのに。また朝方始発戻り?』
「まぁな…」
ゴロリと寝返りを打ち、ベッド横の時計を確認すると確かにもう19時を差そうとする時計にどんだけ寝ていたんだと思うものの、まだ身体の気怠さは取れてはいない。熱も下がっていないのか、息のし辛さに優斗はスマホをスピーカーにすると枕に頭を沈めた。
『何、お前もしかして体調悪いの?』
「……まぁ」
芸術面が優れている人間は感知能力や第六感、感受性が強いと言われているが、この友人、常葉もそのタイプなのかもしれない。変に鋭いのは昔からだなと思うと妙にくすぐったい気持ちになる。
『大丈夫なわけ?』
「どうだろうな…取り敢えず寝とく…それよか、何かあった?」
『いや。久しぶりに飲もうかなくらいで電話してみたんだけ』
「そっかぁ…悪い」
『熱?熱とか、あんの?』
「え?あー…多分下がって無い感じだな…」
『熱あるのかよ。飯と、あ、」
「…やぎぃ?」
あ?
あってなんだ、最後のあ、って。
不意に途切れた常葉の声。
何かあったのだろうかとスマホを此方に向けるも、何やら人の話し声とガタガタっと言う音と共に通話が切れたらしい。
真っ暗になったスマホにぼーっとした間の抜けた顔だけが映り込んでいる。
(何だ…?)
スマホでも落としたのだろうか。
掛け直そうかとも思ったが、何をするにも怠いとボタンひとつ押すのも面倒だ。
(もう、いいか…)
腹は減っていても作れる余裕も、考えたら材料だってない。
買いに行く体力だって無いのだから、もう寝ているのが得策だろう。
息を深く吐きつつ眼を瞑り、身体を丸める優斗だがそれから数十分経った頃だ。
ーーーガチャ、
(ーーーーーーは?)
ぎぃっと鈍い音に優斗の眼が開かれていく。
(…扉が、開いた?)
中々寝付けない中、ベッドの上でただ眼を閉じているだけの時間を過ごしていた中、聞こえてきた音に身体を強張らせるのは当然の事だ。
鍵を、掛け忘れていたーーー?
そんな事実に、嘘だろ、と青ざめていく顔色は寝る前よりも悪い。
ざっざっと音がする。靴を脱いでいるらしい。
次いでぎしっと床の軋む音とカシャカシャとビニール同士が擦れる音。
眼を瞑っている所為で耳だけで情報を得る為か、やたらとクリアに聞こえる音が余計に恐怖を煽る。
(どろぼー…?嘘だろ、まじかよ…)
通り魔のような変質者だったらどうしよう。
近くに置いておいた筈のスマホも手の近くに無い。
ああ、まじで、どうしたら、
此方に近づいてくる気配を感じる。
ドキドキと不安からの心拍数上昇で苦しい。風邪の苦しさと相まってもう最悪だ。
ぐぐっと拳を握り、息を潜めるも、
「寝てんのか?」
聞こえてきた声は、酷く小さく穏やかなモノ。
「……………は?」
その声に弾かれるように、だが、ゆっくりと瞼を持ち上げると、ぼやける視界に人影が映る。
「何だ、起きてんの?」
「…え、えぇ、」
段々とピントが合い、そうすればはっきりと形が浮かび上がり、紛れもない、そこに居る人物に優斗の眼が大きく見開かれた。
「な、ごみ、さん…?」
「よぉ」
まさかの安達が部屋にいる。
しかも、男バージョンで、だ。
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