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そこには無い特別
女が嫌う女のタイプとは?と聞かれたら、
男性の前で態度が違う、やたらとボディタッチをする。
さりげなく周りの女性を下げ発言、自分上げをする。
SNSでのマウンティングは天井知らず。
だからと言う訳ではないが、自分が盛れている写真だけを選べる能力に長けている。
上司に見て分かる程の媚びを売りまくる癖に、ハゲだの脂ギッシュだの、温泉言ったら脂浮いて天ぷらになりそうなどの悪口・陰口なんて主食レベル。
いや、流石にここまでセットで違う意味でのお得感満載な女なんて見た事無いわ、とネットやテレビを鼻で笑っていたのだけれど、
「麗奈せんぱぁい、ランチ一緒に食べましょぉ」
此方に向かって小走りで走ってくるのは私よりも一年後に入社した後輩だ。
シェーディング要らずの小顔に透き通るような肌の透明感、長い睫毛はくるんと上向きカール。
ふんわりとしたピンクを基調としたアイメイクに唇もふっくらぷるるん。
栗色の髪を緩く巻いてこちらを見上げる小柄で華奢な体系も含めて、女子の憧れを全て詰め込みましたと言われても過言ではない。
だが、
(だけども、だ…っ!!)
「この間の合コンどうして一次会の途中で帰っちゃったんですかぁ?折角この間先輩が取引相手のセクハラ野郎を撃退してくれたって話で盛り上がったのにぃ」
「あー…ごめん、ちょっと母親から呼び出しがあってね」
「先輩カッコいいって言われてたんですよぉ。反対に私あの時怖くて泣く事しか出来てないからぁ、男の子からも同情しかされなくてぇ。先輩は一人で生きていけるタイプの今時女子で、私は甘えるだけで許されるタイプとか言われちゃうしぃ」
――――――こういうところだよ。
ひくっと口元が引き攣りそうになる。
私の隣で同じく合コンに付き合っていた同僚でもある友人の莉緒もぽかんと口を開いた。
星野小春、彼女の所為で彼氏大募集な私はかなりの窮地に陥る事が数回。
合コンを計画すれば、どこから嗅ぎつけたのか『数合わせ必要ですよねぇ、盛り上げるんで任せて下さい!』なんて両手グーポーズでやってくる。
どっかの野球監督にならないのが凄い。
そんな可愛らしい小春は当たり前だが男ウケはすこぶる良い。きゃっきゃと可愛らしく笑い、上目遣いを駆使し大袈裟な程に驚く仕草やボディタッチは玄人の手付き。
上司ウケだって良い。見てるだけで聞こえる『きゅるるん』みたいな擬音を背に上目遣いとこちらのボディタッチはさりげなく。
けれど一応私達先輩には可愛い後輩面してくるものの、同時入社の同僚の女の子達からは評判が悪い。
残業がしたくない為だけの仕事の押し付け、ミスは泣く所からスタートし、人の所為にするまでがゴール。
給湯室と女子トイレは別に悪気は無いですよアピールをしつつ悪口と陰口三昧で独り舞台化する。
でも本当に可愛いからSNSなんてやってみれば面白いくらいにいいねの嵐。
服を買っちゃいましたなんて自撮りだけでも称賛のコメントやいいねが付くのだからジャージ購入しましただけでもきっと数は取れるだろう。
ただそこでも性格の悪さとでもいうか、計算された天然とでもいうか、一緒の写真に写っている友達が半目だろうが鼻毛が出てようが放送事故紛いでも、それを待ってましたと言わんばかりに投稿してくるのだから恐怖でしかない。
それでも仕事だけはしっかりしてくれるのならば表だけの付き合いだけしてればいいのだから良いのだけれど、
「あ、そうだぁ。私今日お母さんが風邪でー、だからお昼休憩終わったら早退しますねぇ」
「え、星野さん…午後までに会議用の書類コピー製本までしといてって言われてなかった…?終わったの?」
「いいえー終わらなかったんですぅ。でもお腹は空くし、ご飯食べないと力出ないしぃ、でもお母さんが体調悪いしでぇ。課長に言ったら仕方ないなぁって言ってくれたんですー。すっごい優しいですよね、課長ってぇ」
何でもない風の顔をしてからのてへへ顔。
その真ん中に風穴を開けてやりたいと言う衝動に駆られるもこれ以上何か言っても無駄なのはこの子の入社から半年でもう分かり切っている。
「誰がその後始末するんだろうねぇ…」
ボンゴレのパスタをクルリと巻き付けながら、溜め息を吐く莉緒に続き、私も重々しく息を吐いた。
そんな彼女が仕事終わりに声を掛けて来たのは週末の事だ。
「麗奈先輩、このチーズケーキ屋さん知ってますか!?」
机の上にどんっと置かれた雑誌にはケーキ特集、そしてその中でも見開き二ページに渡って紹介されていたのはチーズケーキ専門店の店。
「あ、これ私知ってるー」
隣の席の莉緒が珍しく興味津々にその雑誌を覗き込んだ。
「有名なの?」
「あ、麗奈は甘いモノ好まないから知らないかぁ。ここって謳っての通りチーズケーキ専門店なんだけどさ、それがまためっちゃ美味しいのよ」
「へぇチーズケーキかぁ」
確かに甘いモノは好まない私はそう言う話には疎い。
けれど、これが一体なんなのか。はて?と首を傾げつつ小春を見遣れば、こちらも眼をキラキラとさせながらいつもの『きゅるるん』を生み出す。
「このお店ってぇ、隣町でちょっと遠いなぁって思ってたんですけど、なんと今日近くのカフェで移動販売みたいに販売するらしくて、しかもパティシエも付いてくるって噂なんですっ」
「…パティシエ?」
え、だから何?
「ここのパティシエって超絶美形って噂なんですよっ!!見れたら幸せになれるって言われてくらいい本店でもお目に掛かれないらしいのに、そんな人が来るんですよっ」
「へ、へぇ、そ、そう、なんだ」
何だその都市伝説は。
若干小春からの圧に押され、身体が後ろに行くも彼女はそんな事気にもしていないらしい。
「だから、一緒に行きましょうよぉ!!」
「…え?」
「他の子は用事があるとかでダメみたいでぇ…でも一人は嫌なんですっ、ね、麗奈せんぱーい、一緒に行きましょうよぉ」
うるうると涙目にお願いポーズ。
チワワ10匹分はあろう可愛いを惜しみなく出され、気迫にも圧倒された私は無意識に頷いてしまったようだ。
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