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僕の相棒の真っ赤なパソコンは、肌寒い殺風景な六畳の部屋で今夜も活躍している。言わずもがな、彼が目下降臨中だからだ。彼は物の見事に真っ白い画面を真っ黒に染め上げてしまう。
こんな文章、どこからやって来たんだと見返してびっくりするくらいに彼には語りたいことがたくさんあるらしい。
カタカタカタ、と鳴るキーボードは僕の足音だ。僕の走った足跡は文字になる。画面にびっしりと埋まっていく真っ黒な文字の羅列は、彼との追いかけっこの軌跡だ。
文字が左から右へと走って行くのを目で追いながら僕は気持ちが抑えられない。僕は彼の言葉を代弁する裏方に徹しながらも、人知れず欲望がほとばしっている。
振り向かずに走って行く彼を、いつかつかまえて触りたい。よく噛んで飲み干して味わいたい。我ながら、本当にどうかしている。
僕は彼の表情を見ながら言葉を交わすことも、たとえ指先だけでも触れ合うことすら叶わないというのに。
僕の積み重ねた文字数は彼への愛、と言えば薄ら寒いがきっと僕は君を通して彼に出会って、彼を書き続けることで君に感謝したいのだと思う。
こんなにも退屈な僕を夢中にさせてくれてありがとう。僕は君が見つけてくれた彼と走り続けるから、立ち止まったときに君を思い出すから。
そのときは、僕が今まで書き綴った恋文を読んでくれるかな、なんてことが物語を完結させたときの僕の夢。
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