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彼の到来。僕にとっては、何物にも代えがたい幸せの瞬間。他の全部をかなぐり捨ててでも、優先される最重要機密。僕は仕事そっちのけで、無理矢理にでも彼を書き留める作業を開始する。
たとえ金縛りの途中でも、誰かに告白されている最中でも。もうこんなにも「彼」は僕の生活の一部になりつつある。
彼は思い立ったら吉日、わがままで暴君よろしく猪突猛進。無理な態勢でノートに手を伸ばそうとする寝ぼけ眼の僕にはお構いなしに、自分のことを耳元で話し始める。
スマートフォンが布団の上に落下して、文庫本がばさばさと散らばる。僕は懸命に溢れ出る言葉を書き連ねていく。汚い文字がノートの上にぐちゃぐちゃと散らかる。頭も取っ散らかってくる。
早く、早く、かき集めて文字にしないと。
僕の偏狭な文章表現では、彼の美しさなど到底誰にも理解されないけれど。そこは僕の力不足で、彼には本当に申し訳ないと思っている。
どうか、どうか、彼の素晴らしさがいつか誰かに届きますようにと願う僕はどうかしている。
たとえおかしいという自覚があっても、僕の気持ちはすでに走り出してしまっている。
──彼を書く作業は、皆には内緒の追いかけっこなんです。
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