拝啓、僕の救世主様

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   ──気付けば、すでに気持ちが走り出してしまっていた。  君には正直に話しておこうと思う。僕は今まで何かに熱中したことも、時間を忘れて何かに没頭したこともなかった。  物語を書くなんて大それたこと、やってみようなんて思わなかった。そんな僕が、君に捧げる恋文のつもりで物語を書いてしまうなんて。  ──実はあの小説の主人公は君です。  君ほど興味を搔き立てられ、知的好奇心を刺激された存在はいない。君は舞台上で、あるキャラクターを演じていた。  正直なところ、僕はそのアニメ自体あまり好きではなかったし、そのキャラクターになんの思い入れもなかった。  寝つけない夜に、退屈しのぎで録画したそれを再生してみた。舞台袖から君が最初に出て来た瞬間を今でも思い出す。  君は原作以上の存在感を身にまとわせ、アニメ以上にそのキャラクターを体現していた。  とてつもない衝撃だった。僕は、もはや網膜に焼き付くんじゃないかと思うくらいその舞台の映像を繰り返し観た。  観続けて、観続けて、しまいにはとうとう、  ──僕はそのキャラクターを主人公に文章を書いていました。  とっかかりが、原作でもなくアニメでもなく君が演じた舞台を観たから。そんな動機で小説を書き始める奴、いるわけないと思うが現に僕が一人いる。  君のことを好きだと言うと語弊(ごへい)があるが、僕は君を通してそのキャラクターの魅力を知った。  僕の中では「君=彼」なので、演じていない素面(しらふ)の君のことは知る必要もないと思っている。  ただ僕は、君が演じたキャラクターが気になってしょうがなくなった。  何度も、何度も、頭の中で考えるたびに、しまいにはとうとう、  ──そのキャラクターが勝手に動いて物語を作り始めました。くわしく話すと、君の演じたあの役が僕の想像の中で縦横無尽(じゅうおうむじん)に駆け巡った挙句に、つらつらと身の上話とか小言とか僕の状況に関係なく話し始めるわけです。本を読んでいる最中、通勤途中、寝落ち数秒前に突然降って湧いてくるわけです。  
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