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「藤原?どうした?大丈夫か!?」
「ゴホっ……だいじょうぶ、です……」
涙目になりながらも煙草の火を灰皿に押し付ける。
背中を摩ってくれる佐藤さんにお礼を言いながら呼吸を整える。
「……お前、やっぱり煙草なんてやめろよ」
「……やめられるならとっくにやめてますよ」
美味しいとかまずいとか、そんなのどうでも良くて。煙草に慣れてしまったらヤニ切れの頭痛の方がつらかった。
本当は病院に行ってでもやめるべきなんだろう。けど。
あんなクズでも、好きだったんだよなあ……。
「……そろそろ忘れないといけないですね」
「……藤原?」
アイツと別れた今、アイツと付き合っていた証はこんなものしかなくて。
やめたらもう、アイツと私の繋がりは全く無くなってしまう。
ーーなんて。もうアイツとの繋がりなんて何も無いのに。
それをわかっていて、この煙草をやめることができない私は、アイツにまだ僅かながら未練があるのだろうか。単に煙草の中毒になってしまっただけか。別れた後も忘れないようにと呪われでもしたか。……なんて、そんなわけないか。
「……先に戻ります。……お疲れ様です」
自分の浅はかな考えに苦笑を零しつつ、空になった煙草の箱をゴミ箱に捨てて喫煙室を出ようとすると、後ろから腕を掴まれる。
「佐藤さん?」
佐藤さんが吸っていた煙草は知らぬ間に灰皿に押し付けられていて。
後ろを見上げると、その切れ長の目が私を映す。
「あの……さ。……今夜、食事でもどう?」
私の腕を掴んだその手は熱を帯びていて。
「……え?」
「今夜。俺と。二人で」
「……いい、ですけど」
「じゃあ、定時過ぎにロビーで。都合変わるようなら連絡して」
差し出されたスマートフォン。増えた連絡先。
画面から目を離した先にある赤らんだ頬。
「……逃げんなよ?」
その表情と捨て台詞に、私の中で何かが走り始めた気がした。
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