佐藤さんと私

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「……そんなもん、吸うのやめろよ」 「いや、佐藤さんにだけは言われたくないです」 この会社の喫煙室は、周りの人の煙草の煙が篭ってしまうから嫌いだ。 しかし他に吸う場所がないから仕方なくここに来る毎日。 20歳過ぎに付き合った元彼に無理矢理煙草を咥えさせられ、言われるがままに吸っていたせいかいつの間にかヘビースモーカーになってしまった。それ以来もう何年経っただろうか。 「お前、その銘柄いつから吸ってんの?」 「いつからって言うかこれ以外吸ったことないです」 吸い始めた頃から変わらない銘柄。良し悪しがわからないから無くなり次第買い足している100円ショップの安いライター。 会社の二年先輩である佐藤 敦さんは、毎日この喫煙室で遭遇する。部署も違うためここ以外で会うことはほとんど無い。 「煙草自体はいつから吸ってんの?」 「20歳からです」 「うわ、そこは健全」 「健全な人は吸いません。こんな薬物」 私だって、あんなクズと付き合っていなかったら今も喫煙者にはなっていなかっただろう。 人生は関わる人によって決まると言う人もいるけれど、一理あると思う。 「じゃあ何で吸い始めたの」 「……当時付き合ってた元彼に無理矢理」 「……最低な男だな」 「はい。究極のクズ男でした」 "ほら!美優も吸えよ!美味いから!" "えー、嫌だよ。友達も皆煙くて吸えないって言ってたよ。それにうちの親は嫌煙家だし" "うるせぇなあ。慣れれば吸えるし親なんて関係ねぇだろ?ほら、吸えよ" 嫌な記憶を思い出して、思わず咽せて咳き込んだ。
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