照れ隠し

1/6
前へ
/6ページ
次へ
 美術の授業のため、だらだらと教室移動をしている途中。  廊下で視線を交わした瞬間、相沢さんはハッとして走りだす。僕の前から逃げ去るように。  溜息が自然と漏れ、胸にチクりと痛みが刺す。  となりのクラスの相沢さんは、すごくかわいい人だ。校内で一番の美少女と評してもいい。特に友達としゃべっているときに浮かべる笑顔なんて、癒し効果があるんじゃないかと思っている。少なくとも僕の疲労は吹っ飛ぶ。  まさに女神のような相沢さんなのだが、僕はどうやら嫌われているらしい。いや、正確には避けられている。  いつからだったか相沢さんは僕と目があうたび、走りだして逃げてしまうのだ。理由はわからない。聞こうにも、相沢さんの足は速くて追いつけない。 「照れ隠しってやつだな」  傷心の僕の肩を叩いて慰めるのは、同じクラスの典隆。陽気なヤツで、テストで赤点をとっても笑い飛ばす楽観者だ。  小学校からの腐れ縁で、中学生になった現在もその縁はつづいている。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加