おぎゃあ!

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おぎゃあ!

  「おめでとうございます! 無事死にましたよ!」  その言葉を皮切りに、無数の「おめでとう」の声と、割れんばかりの拍手が私の鼓膜を貫いた。  健やかに寝ていたはずの私は、そのあまりの騒音に叩き起される。  これは一体何事かと目を剥いていれば、まるで仏のような貌をした人々が、横たわる私を覗き込んでいた。  反射的にむくりと起き上がれば、動きにあわせて散らばる菊の花。  私は木の箱の中に寝ていた。花に埋もれて。 「おめでとう。あなた、やっと死にましたよ」 「……はぁ。ありがとうございます」 「やっと終わりましたね」 「終わり、ですか?」 「まだ、ぼんやりしてんのかい? あんたの産刑が、いま終わったんだよ」  あぁ。  あぁ、そうだ。そういえば、そうだった。  私は産刑だったのだ。  産刑とは、極刑のなかの極刑。  産まれるという、最低最悪の罰だ。  しかし、どうやら私の産刑の刑期が、やっと終わったらしい。 「よかった。刑期は無事全て終えたのでしょうか?」  嬉々として周りを見回せば、皆が一様に視線を反らせた。 「あの……いま、終わりって、おっしゃいましたよね?」 「………残念ながら、まだだよ」 「えっ」 「…………あんたは、まだ人生一回目だから、まだまだこれから長いよ」  私は絶望した。  まだ、産まれなければならないのか。  まだ、私はあの地獄を繰り返さなければいけないのか。 「あぁ、あんた、あと三回もあるんだね」  周りの仏がひとり、またひとりと泣き崩れる。 「…………あぁ、産まれたくない」  私も泣いた。    おぎゃあ、と。
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