第五章 霊媒師こぼれ話_大倉弥生28才の飲んだくれライフ

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と、めちゃくちゃアタシが焦っていると、オッサンの中の1霊がこう言ったんだ。 『それがねぇ、幽霊でも飲めるのよ。弥生ちゃん、我々にもコップを用意してくれる? その中にお酒を注いで準備が出来たらこう言ってほしいの。 ”お飲みなさい!” とね』 ハァ? そんなんで飲めるのかよ、ワケワカンネ。 でもまぁダメで元々、言うだけ言ってみっか。 なんつったって、飲んでくれなきゃ潰せねぇしな。 半信半疑で酒をつぎ、コップをそれぞれ並べた後に、アタシは一言 ”お飲みなさい!” と言ってみたんだよ。 そしたらさ、 『来た……来た来た来たぁっ! これ鬼殺しでしょ! うまぁっ!』 『口の中にブワッと広がるアルコール! 最高!』 『何十年振りだろう……! 美味しいなぁ……泣けてくるぅ!』 え……? なに……? 酒の味が……分かるってコトなの……? いや、でもさ、コップの酒は減ってないよ。 それでも味が分かるのか……? 聞けば、酒でもメシでも現物がその場にあって、生きてるヤツが ”お飲みなさい” なり ”お食べなさい” なり言ってやれば、味わう事が出来るんだと言っていた。 そうなんだ……15の頃から霊の姿が視えるけど、そんなのアタシ知らなかったよ。 もっとも、アタシが普段相手にしてる幽霊は、全身黒い悪い(ヤツ)だけ。 まともに話はしないしさ、目が合えば襲ってくるから、アタシはただただそれを迎え撃つだけだ。 思い返せば白い霊(・・・)とも、こんなにたくさん話すのは初めてかもしれない。 「オッサンら……色々モノを知ってるんだな。幽霊でも酒が飲めるなんて初めて聞いたよ。なぁ、アンタら一体なんなんだ? 黒くないから良い(ヤツ)なのは分かるけど、それ以外なにも知らないよ。なんで佐藤君を応援するんだ? なんでアタシに憑いてきたんだ? なんで成仏しないんだ?」 鬼殺しをグイグイ飲みつつ聞いてみた。 オッサン達は酒がそんなに強くないのか、すでにほっぺが真っ赤っか。 ほろ酔いのゴキゲンで、曼珠沙華では ”ナイショ!” と言って答えなかった質問に、ポツリポツリと答え始めだんだ。
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