第五章 霊媒師こぼれ話_大倉弥生28才の飲んだくれライフ

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投げキッスをサッとよけたアタシは、夜もだいぶ更けたコトだし佐藤君となにがあったか、簡単に説明させたんだ。 その話ってのが…… 我々はね、最初から一緒にいた訳じゃないの。 ご近所ではあったけど、3人はそれぞれ別の地域を担当する氏神だったんだ。 昔は良かったよ。 村の人達はみんなで神を大事にしてくれたから。 小さいながらも立派な祠を作ってくれて、毎日毎日入れ替わり立ち代わり、お参りをしてくれたんだ。 信仰があったから、今よりもっと霊力(ちから)があってね。 霊力(ちから)があれば生き人を救う事が出来る、村人達が困っていれば、出し惜しむ事無く、全力で救いに行ったものさ。 ああ…………あの頃が一番充実していたなぁ。 人を救えば感謝され、祠の前にはお神酒に饅頭、漬物やおにぎりも……溢れんばかりに供えてくれて……それが本当に嬉しかった。 でもね、そんな時代は終わってしまった。 我々を信仰してくれた村人達も代替わりをし、子供の世代、孫の世代、ひ孫の世代になった頃には、我々を信仰する者などいなくなってしまったの。 あれだけ毎日人が来てくれたのに、祠が痛めばすぐに直してくれたのに、お供え物もぱったりと無くなって……廃墟のようになってしまった。 信仰が無くなれば、神の霊力(ちから)は衰退する。 大きな岩を一撃で砕いた霊力(ちから)も、干ばつに大雨を降らせた霊力(ちから)も無くなってしまった。 その辺に転がる小さな石ころさえも動かす事は出来ないくらいにね。 代が変わり時代も変わり、”村”が ”町” となり、町もいくつか合併して ”市” になった。 都市開発、……というものが活発になり、建築業者が古い家を取り壊し木を伐採し、……そして、我々3人の古びた祠もごみクズのように撤去されたの。 祠は一か所に集められ、近いうちに焼却される事になっていてね。 ははは……その時はもう、立ってる事さえままならなくて、我々3人、壊れた祠の前に座って、あとはもう消えるのを待つばかりとなっていたんだ。
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