第五章 霊媒師こぼれ話_大倉弥生28才の飲んだくれライフ

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辛かった……苦しかった、切なかった。 昔、あんなに生き人達を救ってきたのに、彼らを救い感謝の言葉をもらえたら、それだけで幸せだと、苦労はあっても救えて良かった、神になって良かったと思えていたのに……それがなんだ。 たかだか200年も経たないうちにこんな事になってしまった。 悔しさと虚しさでいっぱいだった、口をきく元気もなかった。 もうどうだって良い、せめて最期は同志達と一緒にいたい。 同じように人を救い、同じように人から捨てられ、同じように消える運命。 そんな神々と、手を取り合って消滅したい、…………そう願ったんだ。 そんな時だった。 ____うわぁ! なんて罰当たりな! ____これ祠じゃないですか! ____これはごみじゃありませんからね! たまたま、近所の家にリフォームに来ていたサトクンが、我々の祠を見つけてくれて、ボロボロの三宇の祠を持ち帰ってくれたんだ。 ふふふ……そうなの、我々の祠は今、 ”リフォーム前島” の敷地内にあるんだぁ。 元々の柱を生かしてくれて、それは立派に作り変えてくれたの。 なんてったってサトクンはリフォーム会社の技術屋さんだからね、びっくりするほどカッチョ良く、感心するほど住みやすい祠にしてくれたんだから! サトクンはリフォームしてくれただけじゃない。 出勤するたび拝んでくれて、いつしかそれは前島クンや他の社員もおんなじように拝んでくれるようになったんだ。 霊力(ちから)もね、全盛期ほどじゃあないけど、だいぶ元に戻ったし。 我々にしたら恩人だよ。 おかげでこうして消える事なく、3人揃って存在し続けているんだ。 もうね、サトクンを推したくなる気持ちワカルでしょ? あの子無しではとっくに我々消えてたの。 惨めなまま……下手をすれば、最期の瞬間は人を恨んだかもしれない。 マイナーとはいえ神だもん、出来ればそんな恨み節は言いたくないよ。 本当に……感謝してもし足りない。 だから応援したかったんだ。 サトクンには幸せになってほしい。 我々神を救ってくれた優しい子だもの。
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