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尻もちのその人は、50代後半くらいの男性だった。
痩せ型で、年相応の白髪の量の優しそうなおじさんだ。
あれ……?
この人、どこかで見た事があるような……そんなコトを頭の隅で考えながら、僕は先に立ち上がり、おじさんの手首を掴んでそのまま上に引っ張ったのだが…………
つ、冷たいぃぃ!
危うく悲鳴が出るトコだった。
なに今の……手首、めちゃくちゃ冷たかったよ。
なんでこんなに冷えてるの? ハンパない冷え性なの?
それにしたってキンキンすぎない?
立ち上がった冷え性疑惑のおじさんは、「あ、ありがとう」とぎこちなく呟くと、またもや口をポカンと開けて、僕の顔と僕の手を何度も何度も交互に見てた。
や、だから、えっと……なんでしょう?
僕の顔、なんかついてますかね?
あまりの凝視に居心地が悪くなり、どうしたもんかと考えた。
てか、あなたは一体どなた様?
こんな夜中に会社の事務所に音もなく現れて……って、(サーーーーー)ま、まさか……この人ドロボウだったりしないよね……?
い、いやまさか、だってこんなに優しそうだし、悪い人には見えないし、そもそもどこかで見た顔だ、……そう、どこかで絶対見てるんだよな、どこだったっけ?
不安と疑問がごちゃまぜで、こりゃあもう社長を呼ぶしかないかもしれない……と思い始めた時だった。
謎行動のおじさんが、ここでようやくこう言ったんだ。
「……もしかして、キミは岡村君?」
えぇ!?
まただ2回目、このおじさんも僕の名前を知ってるの?(1人目は瀧澤社長)
ちょ、誰? この方は誰?
「は、はい。仰る通り僕は岡村ですけど……あなたは一体……」
聞きながら顔を見た。
白髪のパーマ、気の弱そうな優しい表情、茶色いズボンにチェックのシャツ、胸ポケットからチラリと見えるは、見えるは……ん? チョコレート?
「…………あぁ!? もしかして、伊藤さん!?」
思い出した!
この顔、そしてチョコレート!
彼の名前は伊藤さん、瀧澤建設の社員さんだよ!
昔、僕が瀧澤建設に通ってた頃に仲良くしてくれた人だ!
おじさんなのにチョコレートが大好きで、胸のポッケはいつでもチョコでパンパンだった。
自分で食べるだけじゃなく、まわりの人にも配ってさ。
伊藤さんは優しいから、僕にもたくさんくれたんだ。
そか……伊藤さんだったのか、僕……ぜんぜん分からなかった。
伊藤さん……かなり痩せたな。
当時はもっとガッシリしてた、脂肪も筋肉もたっぷりついてて今の倍はあったんだ。
どうしたんだろう……?
ご病気だろうか……さっき手首が冷えてたのも、もしかしたらそのせいかもしれない。
聞いてみようかな……いや、駄目だ。
伊藤さんから話してくれるなら良い。
だけどデリケートな話だもの、再会早々僕からアレコレ聞いたら駄目だ。
なので、
「お久しぶりですねぇ。こんな夜中にビックリしたけど、会えてめっちゃ嬉しいです!」
嬉しい気持ちだけを口にしたのだ。
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