第一章 霊媒師こぼれ話_岡村英海

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尻もちのその人は、50代後半くらいの男性だった。 痩せ型で、年相応の白髪の量の優しそうなおじさんだ。 あれ……? この人、どこかで見た事があるような……そんなコトを頭の隅で考えながら、僕は先に立ち上がり、おじさんの手首を掴んでそのまま上に引っ張ったのだが………… つ、冷たいぃぃ! 危うく悲鳴が出るトコだった。 なに今の……手首、めちゃくちゃ冷たかったよ。 なんでこんなに冷えてるの? ハンパない冷え性なの?  それにしたってキンキンすぎない? 立ち上がった冷え性疑惑のおじさんは、「あ、ありがとう」とぎこちなく呟くと、またもや口をポカンと開けて、僕の顔と僕の手を何度も何度も交互に見てた。 や、だから、えっと……なんでしょう? 僕の顔、なんかついてますかね? あまりの凝視に居心地が悪くなり、どうしたもんかと考えた。 てか、あなたは一体どなた様? こんな夜中に会社の事務所に音もなく現れて……って、(サーーーーー)ま、まさか……この人ドロボウだったりしないよね……? い、いやまさか、だってこんなに優しそうだし、悪い人には見えないし、そもそもどこかで見た顔だ、……そう、どこかで絶対見てるんだよな、どこだったっけ? 不安と疑問がごちゃまぜで、こりゃあもう社長を呼ぶしかないかもしれない……と思い始めた時だった。 謎行動のおじさんが、ここでようやくこう言ったんだ。 「……もしかして、キミは岡村君?」 えぇ!? まただ2回目、このおじさんも僕の名前を知ってるの?(1人目は瀧澤社長) ちょ、誰? この方は誰?  「は、はい。仰る通り僕は岡村ですけど……あなたは一体……」 聞きながら顔を見た。 白髪のパーマ、気の弱そうな優しい表情、茶色いズボンにチェックのシャツ、胸ポケットからチラリと見えるは、見えるは……ん? チョコレート? 「…………あぁ!? もしかして、伊藤さん!?」 思い出した! この顔、そしてチョコレート! 彼の名前は伊藤さん、瀧澤建設の社員さんだよ! 昔、僕が瀧澤建設(ここ)に通ってた頃に仲良くしてくれた人だ! おじさんなのにチョコレートが大好きで、胸のポッケはいつでもチョコでパンパンだった。 自分で食べるだけじゃなく、まわりの人にも配ってさ。 伊藤さんは優しいから、僕にもたくさんくれたんだ。 そか……伊藤さんだったのか、僕……ぜんぜん分からなかった。 伊藤さん……かなり痩せたな。 当時はもっとガッシリしてた、脂肪も筋肉もたっぷりついてて今の倍はあったんだ。 どうしたんだろう……? ご病気だろうか……さっき手首が冷えてたのも、もしかしたらそのせいかもしれない。 聞いてみようかな……いや、駄目だ。 伊藤さんから話してくれるなら良い。 だけどデリケートな話だもの、再会早々僕からアレコレ聞いたら駄目だ。 なので、 「お久しぶりですねぇ。こんな夜中にビックリしたけど、会えてめっちゃ嬉しいです!」 嬉しい気持ちだけを口にしたのだ。
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