第六章 霊媒師こぼれ話_ジャッキーと占い師

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新宿からの下り電車、仕事帰りの朝10時。 通勤ラッシュはとっくに過ぎて、人もまばらでのんびりしてる。 座席はたくさん空いていて、そこに座ってひと眠りしたいとこだが……残念、次の中野で降りるから、そうも言っていられない。 昨日の晩、千夏が泣きながら電話をしてきた。 その時自分は撮影中で、ビルの窓からガラスを破って飛び出すシーンを撮っていた。 携帯電話は持っているけど、邪魔になるからバッグの中に入れたまま。 角度を変えてテイク3を撮り終えた後、10分ちょっとの休憩時間に携帯電話を見てみれば、着信履歴は20を優に超えていた。 画面には千夏の名前がズラっと並び……ものすごくギョッとして、なにがあった!? と背中に汗が流れた時に再び電話が鳴ったんだ。 ____ジャッキー!?  ____やっとつながった、今どこ!? ____もう何日会ってないと思ってるのよ! ____電話もぜんぜんくれないし、 ____忙しいのはわかるけど…… ____このまま放っとかれたら淋しくてどうにかなりそう、 ____お願い、明日は会って、 ____そうじゃなければ別れるから、本気だから、 猛省した。 そんなに淋しい思いをさせてたなんて、思ってもみなかったんだ。 確かに忙しかった。 撮影が重なって、ここ数週間はまともな休みが取れていない。 半日だけとかそんなのばかりで、だけど仕事は楽しくて、夢中になるうち千夏を後に回してしまった。 千夏が言うには最後のデートは1カ月前、それもたったの数時間……だったらしい。 そんなに時間が経っていたのか。 忙しさの合間合間に特訓をして、撮影現場で仲間と会えば、帰りはそのまま飲みに行ってた。 その隙間時間に千夏と会えば良かったのかもしれないが、千夏も千夏でこれが中々忙しい、……そう、駆け出しとは言え千夏は役者だ。 労働時間も休みも不規則、スケジュールを合わせるのは至難の業なのだ。
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