第一章 霊媒師こぼれ話_岡村英海

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「会えて嬉しい……会えて……か、……ねぇ岡村君、キミは……その……元気……なのかい? 元気というのは、なんて言うのか……つまり、……生きてる?」 伊藤さんは心配そうに僕に元気か聞いてきた。 僕はさ、「ハイ、元気です」そう答えようと思ったの。 だけどそれじゃあツマラナイかな? 当たり前すぎるかな?  だって伊藤さん、「生きてる?」なんて冗談を言ってるし。 もしやコレはフリなのでは? じゃあ僕も、ココはひとつおんなじノリで返そうか、と疲労の溜まった深夜のテンション。 余計なコトを考えちゃって、下手な冗談を言ってみたんだ。 「いやぁ、(仕事がハードで)死んでますよ! 僕もそろそろ30だし、年かなぁ。若い頃より無理がきかな、……って、えぇ! 伊藤さん!? な、なんで泣くの!?」 びっくりした。 冗談言ったつもりでいたのに。 伊藤さんはさめざめと泣きだしたんだ。 「だ、だって、かわいそうで……岡村君、まだ若いのに、」 ああもう、心配してくれて優しいなぁ。 こういうトコ、昔とぜんぜん変わってない。 社長をはじめ瀧澤建設(ココ)の会社の皆さんは、威勢の良い人達が揃ってる。 伊藤さんはその中では珍しく、涙脆くて穏やか過ぎる人だった。 で、でもさすがに、下手な冗談に泣くコトはないと思うの。 「伊藤さん、ゴメンナサイ! 僕、ちょっと大袈裟に言いました。大丈夫です。元気ですよ。さっきのは冗談です。(疲労の意味で)死んでませんから安心してください」 努めて明るく答えると、伊藤さんは数秒ポカンとした後に、 「え……? 死んでない? じゃあ生きてるの? ああ、良かった! 安心したよぉ! んも! 悪い冗談、ダメ! ……となると……あれ?(ジロジロジロジロ)なんで? おかしいな、さっきは手だって……えぇ? そんなバカな……ん? んー?」 しきりに首を傾げたの。 で、さらには真面目な顔でこんなコトを言い出した。 「岡村君、もしかしてキミ……霊感あったりする? いや、あるよねぇ?」 「れ、霊感? 霊感って心霊的なアレのコトですか? やだっ、突然なにを言い出すんですか。そんなモンありませんよ。だって僕、生まれてこの方、幽霊なんて見たコトないし、金縛りすらかかったコトないもん」 びっくりした(アゲイン)。 なんでいきなりオカルト話? ま、キライじゃないけど、今は深夜で草木も眠る丑三つ時だ。 こんな時間に怖い話をしていると幽霊が寄ってくると言うし(ネット情報)……なんてコトを思ったら、ヤバイ、薄っすら鳥肌立ってきた。 「視たコトないの? 1度も? またまたー、だって現にこうして、……」 「現に……? そ、それどういう意味? なんかいるの? やだ! 夜中にヘンなコト言わないでくださいよぉ!」 鳥肌全開。 ユーレーなんて信じてないけど、でも、僕は基本ビビリなのだ。 「どういう意味って……わからない? あのね、岡村君。私は…………ああ……うん、まぁ、いいかぁ……ヒトと話をするなんて久しぶりだもの。もっと話したい。細かいコトはこの際どうでもいいか、」 最後の方はゴニョゴニョと、独り言ちた伊藤さんは「なんでもないよ」とニコッと笑い、 「そんなコトより、なんだってこんな夜中に瀧澤建設(ウチ)の事務所にいるんだい?」 と話題を変えたのだった。
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