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「会えて嬉しい……会えて……か、……ねぇ岡村君、キミは……その……元気……なのかい? 元気というのは、なんて言うのか……つまり、……生きてる?」
伊藤さんは心配そうに僕に元気か聞いてきた。
僕はさ、「ハイ、元気です」そう答えようと思ったの。
だけどそれじゃあツマラナイかな? 当たり前すぎるかな?
だって伊藤さん、「生きてる?」なんて冗談を言ってるし。
もしやコレはフリなのでは?
じゃあ僕も、ココはひとつおんなじノリで返そうか、と疲労の溜まった深夜のテンション。
余計なコトを考えちゃって、下手な冗談を言ってみたんだ。
「いやぁ、(仕事がハードで)死んでますよ! 僕もそろそろ30だし、年かなぁ。若い頃より無理がきかな、……って、えぇ! 伊藤さん!? な、なんで泣くの!?」
びっくりした。
冗談言ったつもりでいたのに。
伊藤さんはさめざめと泣きだしたんだ。
「だ、だって、かわいそうで……岡村君、まだ若いのに、」
ああもう、心配してくれて優しいなぁ。
こういうトコ、昔とぜんぜん変わってない。
社長をはじめ瀧澤建設の会社の皆さんは、威勢の良い人達が揃ってる。
伊藤さんはその中では珍しく、涙脆くて穏やか過ぎる人だった。
で、でもさすがに、下手な冗談に泣くコトはないと思うの。
「伊藤さん、ゴメンナサイ! 僕、ちょっと大袈裟に言いました。大丈夫です。元気ですよ。さっきのは冗談です。(疲労の意味で)死んでませんから安心してください」
努めて明るく答えると、伊藤さんは数秒ポカンとした後に、
「え……? 死んでない? じゃあ生きてるの? ああ、良かった! 安心したよぉ! んも! 悪い冗談、ダメ! ……となると……あれ?(ジロジロジロジロ)なんで? おかしいな、さっきは手だって……えぇ? そんなバカな……ん? んー?」
しきりに首を傾げたの。
で、さらには真面目な顔でこんなコトを言い出した。
「岡村君、もしかしてキミ……霊感あったりする? いや、あるよねぇ?」
「れ、霊感? 霊感って心霊的なアレのコトですか? やだっ、突然なにを言い出すんですか。そんなモンありませんよ。だって僕、生まれてこの方、幽霊なんて見たコトないし、金縛りすらかかったコトないもん」
びっくりした(アゲイン)。
なんでいきなりオカルト話?
ま、キライじゃないけど、今は深夜で草木も眠る丑三つ時だ。
こんな時間に怖い話をしていると幽霊が寄ってくると言うし(ネット情報)……なんてコトを思ったら、ヤバイ、薄っすら鳥肌立ってきた。
「視たコトないの? 1度も? またまたー、だって現にこうして、……」
「現に……? そ、それどういう意味? なんかいるの? やだ! 夜中にヘンなコト言わないでくださいよぉ!」
鳥肌全開。
ユーレーなんて信じてないけど、でも、僕は基本ビビリなのだ。
「どういう意味って……わからない? あのね、岡村君。私は…………ああ……うん、まぁ、いいかぁ……ヒトと話をするなんて久しぶりだもの。もっと話したい。細かいコトはこの際どうでもいいか、」
最後の方はゴニョゴニョと、独り言ちた伊藤さんは「なんでもないよ」とニコッと笑い、
「そんなコトより、なんだってこんな夜中に瀧澤建設の事務所にいるんだい?」
と話題を変えたのだった。
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