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おなかも膨れて店を出て、このあとはどこに行こうと考えた。
買い物、映画、この時間なら遊園地も良いかもしれない。
平日で空いてるだろうし、たっぷり遊んで夜までいれば、ライトアップの観覧車にも乗れる。
だが、……まずは千夏の希望を聞いてからだ。
一カ月も放ってしまった、淋しい思いをさせたのだから、今日は1日お姫様になってもらおう。
「千夏、どこか行きたい所はない? どこでも好きな所に連れてってあげる。遠慮はいらないよ。わがまま言って、したいコト教えて、」
華奢な肩を抱き寄せながら、帽子の頭にキスをした。
千夏はそのまま上を向き、ニコッと笑ってこう言ったんだ。
「わがまま言っていいの? やった! あのね、行きたい所が2つあるの。ジャッキーは興味ないかもしれないけど……ふふふ、付き合わせてもいい?」
”もちろんだ” と答えると、千夏ははしゃいで自分の手を取り歩き出す。
向かった先は駅方面で、電車でどこかに移動するかと思っていたのに、……違った。
コッチコッチと到着したのは駅前にあるアーケード、中野ブロードウェイだった。
「私ね、ここに来たかったの! だから待ち合わせも中野にしたんだぁ!」
細い指がビシッと伸びて、アーチのゲートを指している。
ここに……来たかったのか? 本当に?
だってここは俗に言う ”オタクの聖地”、入る店舗もアニメや漫画、コスプレショップがほとんどだ。
現に、ゲートの周りは一般人とは程遠い、メイドやら戦士やらが通行人に何かのチラシを配ってる。
「千夏……えっと、なんでココなの?」
聞いた、当然聞いた。
普段の千夏と ”オタクの聖地” がどうしても結びつかない。
アニメとか漫画とか、そういうのに興味があるとは思えなかったし、素振りも一切見たコトがない。
「なんでって……あのね、今度……声優のオーディションを受けうるの。声だけだって演じるという点では同じだし、頑張ってみたいなぁって。私は普段、バイトばっかでアニメも漫画も見る暇なくて、こんなコト言ったら怒られちゃうけど……受ける予定のアニメの原作、それ自体を知らなかったんだよね。だから買って読んでみたかったの。それとね、オタクさん達も見てみたかったんだ。原作のファンの人達がどんな話をしてるのか、どんなコスプレしてるのか、そういうのをコッソリ覗いて勉強しようと思ってさ」
そうか……納得した。
オーディションに向けての勉強だったんだな。
だがしかし、正直言って自分はアニメの素人だ。
興味が無いからどんなモノが流行っているのか知らないし、話題の1つもついていけない。
が、話した千夏は眩しいくらいにやる気に満ちてる。
こんな千夏を見てしまったら、とことん付き合うしかないだろう。
「分かった、自分は千夏を全力で応援するよ。オーディション、受かると良いな。それで? その原作本は何冊出てるの? 自分が全部買ってあげる、それで勉強すれば良い。そうと決まればすぐ行こう。本屋とそれからコスプレショップも」
そう答えると名前の通り ”千の夏” の笑顔になった千夏の手を取り、思った以上にディープな世界、聖地を巡りまくったのだ。
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