第六章 霊媒師こぼれ話_ジャッキーと占い師

7/34
前へ
/370ページ
次へ
中野駅から歩く事15分。 街道沿いの大きな神社を通り越し、小道を一本入った所にその喫茶店は建っていた。 見た目はレトロ。 茶色い板壁、色のくすんだステンドグラス、入口付近は大小さまざま植木が溢れかえってる。 いかにもだな、昔ながらの喫茶店だ。 目線を上げれば壁に設置の古びた看板、店名は【喫茶・かすり傷】とあr……ちょっと待て、なんで ”かすり傷” なんだ? まったく意味が分からない……”コーヒー” とも ”占い” とも関係ないと思うのだが、ここで本当に間違いないのか? 若干の不安が沸いて隣の千夏を見てみると、 「着いた……【喫茶・かすり傷】だ……」 両手を合わせて恍惚と、囁くように独り言ちていた。 という事は、……ん、名前はともかくココで間違いないようだ。 着いたは良いがドアの前でモジモジしている可愛い千夏。 ステンドグラスで中の様子が見えないからか、あと一歩が踏み出せない。 こういう所はやっぱり20才(ハタチ)の女の子だな。 しっかりしているようで子供っぽいんだ。 だけどこれ……ははは、放っておいたらいつまででもこうしていそうだ。 仕方がない、ここらで背中を押してみますか。 「千夏(ちな)、とりあえず中に入ってみようよ」 声を掛けると「う、うん!」と声が上ずって、自分が開けたドアの向こうにおっかなびっくり入っていったのだ。 …… ………… 「いらっしゃい、」 カウンターからやる気のない声がした。 見ればそこには咥えタバコの女が1人、ニコリともせず煙を天井(うえ)に吐いている。 あまりにヒドイ態度だな……だが、度を越えすぎて逆におかしくなってくる。 まさかと思うが彼女が例の占い師なのか? 他にそれらしき女性は……いないな、となるとビンゴだ。 「ジャッキー(ヒソヒソ)、席に座ろ(コソコソ)」 繋ぐ手をクイクイ引っ張る千夏が言った。 見れば客は誰もいない、どこでも座り放題だ。 ならばと2人、選んだ席は窓際の4人掛け……なのだが。 心なしか机の上がベタベタしてて、メニューは開けどページがくっつき捲れない。 中から見てもくすんだ色の、ステンドグラスはバラの花が描かれてるけど、窓枠に溜まった埃がバラより何より目立ってる。 ははは、どうやらココはご夫婦揃って大雑把らしい。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

472人が本棚に入れています
本棚に追加