第六章 霊媒師こぼれ話_ジャッキーと占い師

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「お待たせしました、」 カップに注いだコーヒー3つ、カウンターに置きっぱなしのシルバートレーで持ってきた。 砂糖とミルクは各席ごとに置いてあるから、コーヒーだけで合ってるはずだ。 しかし……大丈夫だろうか。 注ぐだけとは言え、自分は喫茶の素人だから淹れ方なんて全く知らない。 だからせめてと流し台からお湯を出し、注ぐ前にカップをじっくり温めた。 それくらいしか出来ないが、しないよりはマシだろう。 「はい、ご苦労さん。色男、アンタも座って飲んだらいいよ。ウチのコーヒーは美味くもないが不味くもないって評判なんだ。さ、それじゃあ約束だ。話の続きをしてやるか、」 角砂糖を2つ、ミルクは1つ、慣れた様子でカップに入れてかき混ぜながら占い師はそう言った。 そして……まただ、口を閉ざして千夏の顔をジッと見て、目を細めたり見開いたりと忙しい。 その間、千夏も黙って背筋を伸ばし、ただただ凝視に耐えていたのだが…… 「…………試験は ”舞台” のようだねぇ、」 突如、具体的な事を言い出した。 それに対して千夏の反応は早く、 「舞台!? 舞台のオーディションなのね!?」 日頃から発声訓練をしているせいか、通る声が店内に響き渡る。 「そんなにデカイ声出さなくたって聞こえてるよ。まったくウルサイ姉ちゃんだ。アンタ、芸能人なのかい? 視える未来が一般人のそれとは違う」 「げ、芸能人の……見習いみたいなものです。今の私、仕事なんてほとんどないもの」 芸能人なのか、この質問に背中を丸めて答えた千夏。 占い師はそんな千夏にこんな事を言ったんだ。 「ふぅん、仕事がないのか。どうりで見た事がないと思った。だけどそれは今だけだ。じゃあ……ハイ。これにサインして。ちゃんと ”喫茶・かすり傷さんえ” って書いとくれ。それと後で写真も撮らせてもらわなくちゃ」 前半は無神経、だが後半は千夏の頬を染めさせるに十分な言葉だった。 「わ、私のサインと写真を? ぜ、ぜんぜん良いけど、もらってくれるの嬉しいけど、で、でも……そんなの飾ったところで、ココに来るお客さん、誰も知らないと思うけど……(ゴニョゴニョ)」 「ああ、今は誰も知らないだろうねぇ。私だって知らなかった。でも、言っただろう? 3か月後の試験に受かったら人生が引っくり返ると、誰もかれもがアンタに夢中になる。アンタは未来の大女優になるんだよ。しかも、その未来はすぐそこまで来ている、」
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