第六章 霊媒師こぼれ話_ジャッキーと占い師

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◆ それは嬉しい偶然だった。 今日の自分の仕事場と、千夏の住んでるアパートが1キロも離れていない。 撮影帰りにそのまま会いに行ける距離だ。 その事を昨日の晩に伝えると、 「ゴハン作って待ってる!」 電話の向こうで千夏の声は弾みに弾み、夕方から会う約束をしたんだよ。 …… ………… ……………… 撮影が無事に終わって時刻は午後の6時過ぎ。 毎度恒例、スタッフ達の飲みの誘いを断って、急いで向かうはフラワーショップ。 花言葉には詳しくないから、目で見て綺麗な赤いバラを束ねてもらった。 あとはバニラのアイスクリーム、千夏が一番好きな物をコンビニで買い占めた。 両手に買った荷物を持って、千夏の部屋のチャイムを鳴らす。 ワンルームの二階の角部屋。 ドアが開くと千夏の笑顔と美味しそうなご飯の匂いに思わず顔が綻んだ。 「おかえり! ゴハン出来てるよ、お腹空いたでしょう?」 言うが早いか、千夏はまるで猫の子みたいに自分に飛びつきそう言った。 ”おかえり” 、……か。 一緒に住んでる訳でもないのに……だが、なぜだろう? 不思議な事にさほど違和感を感じない。 それどころかその一言に、疲れが薄まってくようだ。 「千夏(ちな)、ただいま」 自然と返しを口にした。 途端なんだかくすぐったくて、それ以上は話さずに、バラの束とアイスクリームを千夏の前に差し出したんだ。 「これ、おみやげだ」 「え、ありが……わぁ! すごい! バラの花束……ああ、良い香り。それとコッチは……ウソ! ハーゲン〇ッツのバニラ! しかも、イチニイサンシイゴロクナナ……10個もあるぅ! 私コレ大好き! 嬉しいよぉ、ジャッキーありがとう!」 バラとアイスを両手で抱え、千夏の笑顔は溶けていた。 千夏自身も甘い香りを漂わせ、頬はほんのり赤く染まってここにもバラが咲いている。 ドキッとした。 確かに千夏は美人だけれど……ふとした瞬間。 それだけでは説明がつかないくらいに心を鷲掴まれるんだ。 表情なのか声なのか、それとも(まと)う空気なのか……自分はこれまで何度も何度も千夏に見惚れ、釘付けになってきた。 それはまさに今だって…………と、その時。 いつぞやの占い師が言った言葉、それを思いだしたんだ。 ____誰もかれもがアンタに夢中になる、 ____アンタは未来の大女優になるんだよ、 あれはあながち、インチキではないのかもしれない。
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