472人が本棚に入れています
本棚に追加
千夏と話をしなくては。
今夜の電話でその事を、…………いや、電話じゃ駄目だ。
内容が内容だ、顔を見てきちんと話をするべきだ。
場所はどこが良いだろう?
どこか個室の店を予約して……だがこんな時間じゃ難しそうだ。
だとすると、自分が千夏の部屋に行くのが1番良いかもしれないな。
今日の仕事はエキストラだけ、夜には家にいるはずだ。
そうと決まれば用意をしよう。
シャワーを浴びて着替えをしたら出発するんだ。
…………と、ベッドから立ち上がった時だった。
ドンドンドン!
部屋のドアが乱暴にノックされ、
ガチャッ!
自分が返事をするより前に開けられたんだ。
そして、
「あっ! やっぱりお兄ちゃん帰ってた! 珍しー、こんな時間にいるなんて!」
開口一発大きな声、遠慮もなしに部屋の中に入ってきたのは妹の唯だった。
「はぁぁぁぁ……なんでおまえは毎回毎回、ノックをする時は普通に叩け。そのうちドアが壊れるぞ」
このセリフ、今まで何回言っただろう。
言って聞いた試しはないが。
「大袈裟、それくらいじゃあ壊れないわよ。それよりママが夕ご飯食べるのかって。食べるならお兄ちゃんのも作るって言ってるよ?」
夕飯か、久しぶりに家族みんなで食べたいのだが、今夜は都合が悪いんだ。
「ああ……っと、すまない。自分はこれから出かけてくるから、夕飯は外で食べてくる」
そう答えると、唯はクルッと後ろを向いて、開けっ放しのドアの向こうに大声を張り上げた。
「マーマー! お兄ちゃんご飯いらないってー! 彼女とデートするみたーい!」
「ばっ! そんなコト一言も言ってないだろ!」
「え? チガウの?」
「いや……チガクはないけど……」
「じゃあ合ってるじゃん」
「……まぁ、そうかもしれない」
唯は半目のニヤニヤ顔で、腕を組んで勝ち誇る。
妹は兄をやり込めるのが趣味なのだ。
ああ……昔は可愛いかったのに。
どこに行くにも ”兄ちゃん兄ちゃん”、そう言って後ろをついて来てたのに、この変わりようはなんなんだ。
まぁ、それでも唯が可愛い事には変わりはないが。
最初のコメントを投稿しよう!