第六章 霊媒師こぼれ話_ジャッキーと占い師

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◆ 「ジャッキー、おかえり!」 玄関ドアが開いた途端、千夏が胸に飛び込んできた。 朝に一緒に部屋を出てから半日経っての再会だ。 「千夏(ちな)、ん……ただいま」 応えた言葉が昨日よりも照れくさい。 だから自分は手にある袋を千夏に渡す。 「これ、また買ってきた」 中身はバニラのアイスが10個、今日も今日とてコンビニで買い占めてきた。 「わぁ、ありがとう……って、バニラ! え、ちょっと待って! イチニイサンシイ……こんなに!? 冷凍庫に昨日の残りの8個があるから、合わせたら18個! きゃー! すっごーい!」 千夏は大喜びだった。 コンビニの袋を掲げて ”バニラバニラ” とはしゃいでる。 その姿は可愛らしくてコミカルで……そしてなぜだか目が離せない。 ワンルームの狭い室内、そこだけ一際明るく見えた。 …… ………… ……………… 「さぁ、ゴハン食べよー!」 小さなテーブル、所狭しとそこに並ぶは美味しそうな料理の数々。 昨日も作ってくれたのに、今夜も作ってくれたのか。 「こんなにたくさん……昼間は仕事だったのに、作るの大変だっただろう? 急に来てごめんな」 夕方に電話して、今から行くと言った時、食事の事はなにも話していなかった。 部屋に着いたら、そのままどこかに食べに行こうと考えていた。 それなのにこの御馳走だ。 「ううん、ぜんぜん急じゃないよ。来る前に電話くれたじゃない。それに良く見て。今夜のゴハンは昨日の料理のアレンジだから、ぜんぜん手間はかかってないの。サラダは切るだけスープもシンプル、30分もかかってないもん。……って、コレ、”大変だったー!” って言っとけば良かったかな? そしたらジャッキーに褒めてもらえたかも」 千夏は肩をすぼめつつ楽しそうにそう言った。 「あはは、どっちにしたってベタ褒めするよ。アレンジだって作るのは大変だ。それに自分は料理はまったく出来ないからさ、野菜すらまともに切れない。本当に千夏はすごいな」 小さな子供を褒めるみたいに、隣に座る千夏の髪を撫ぜてやる。 すると千夏はそのまま頭を自分に預けて、小さな声で言ったんだ。 「ん……ありがと。ジャッキーは私がなにをしても褒めてくれるよね。それがすごく嬉しいんだぁ。……ねぇ、大好きだよ。大好きだからゴハン作るの楽しい、会えると嬉しい、話すと元気になるし、一緒だとよく眠れる……ジャッキーがいればそれだけで私は幸せなんだ。本当は毎日逢いたいよ、1日だって離れたくないよ、ずっと一緒にいたい。今だけじゃなくて、これから先もずっと、……朝送ったメール、読んだでしょう? あれが私の今の気持ち。冗談なんかじゃない、本気で思ってる事だよ」 自分の胸にもたれた千夏は肩が細かく震えてた。 それっきり黙った千夏は、自分の返事を辛抱強く待っている。 真剣さが伝わってくる、……これは自分も真剣に応えなくてはならない。 だが____ その前に聞きたい事だあるんだよ。 それは千夏が俳優をやめるかどうか迷っていると、そう、言った事だ。
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