472人が本棚に入れています
本棚に追加
「千夏、自分は____」
言いかけた……が、続く言葉を当の千夏が遮った。
「……ご、ごめん! 今話す事じゃないよね、ジャッキーおなか空いてるでししょう? 私もおなかペコペコなんだ、先にゴハン食べちゃおう! 話はあとで」
大袈裟に腹をさすって ”ゴハンゴハン” とおどけているが、顔がかすかにこわばっている。
緊張しているのだろうか。
だとしたら、千夏のペースに合わせてやるのが一番だ。
温かいものを口にしながら、ゆっくりと話をすれば良い。
優先すべきは自分じゃない、千夏なのだから。
……
…………
………………
「それでね、今日は朝から(撮影)現場に行ったのに、結局撮ったのは午後になってからなの! 撮影よりも待ちの方が長かった! まぁ、そうは言っても、エキストラなんて大体いつもそうだけど」
いつものボヤキだ。
エキストラの撮影後は決まって必ずこれを言う。
困った笑顔で文句を言ったその後は、セットで同じく決まった言葉を言うはずなんだ。
____いつか絶対エキストラから卒業してやる、
____主演になったら私のペースで撮影するの、
だが……今夜はそれが出てこない。
代わりに千夏が言ったのは、
「なんか……疲れたなぁ。いつまで経っても芽が出ないし、エキストラのギャラは安いし。アルバイトを掛け持ちしても、家賃とレッスン代でほとんどなくなっちゃうし。田舎の親にも心配かけっぱなしだよ。もうスッパリ諦めた方が良いんだろうな」
これだったんだ。
疲れた……か。
確かに大変だとは思うよ。
自分と違って千夏は一人暮らしだし、生活費もレッスン代もすべて千夏が払ってる。
そんな千夏が心配で、なにかの足しになれば良いと、金を渡そうとした事もあった。
だが受け取らなかった。
好きでしている事だから、自分で決めた事だからと、頑固なまでに拒否をしたんだ。
金がなくても演技が出来ればそれで良い、そう言い切っていたのに。
背中を丸めてフォークを持って、千夏はサラダをつっついている。
腹が減ったと言ってた割には、食事はぜんぜん進んでいない。
「ねぇ、千夏は俳優を諦めるって言ったけど、それは本心なの?」
自分もサラダを食べながら、いいタイミングだとくすぶる疑問を口にした。
すると千夏はフォークを宙に止めたまま、
「……本心だよ。少し疲れちゃったんだぁ。今は演技よりもジャッキーと一緒にいたい。時間のすべてをジャッキーに使いたい。…………あ、こんな言い方重かった? ……ごめん」
自分はなにも言っていないのに、千夏は一人で落ちてしまった。
明らかに様子がおかしい。
「重たくなんかない、千夏の気持ちが嬉しいよ。ほら、大丈夫だから顔をあげて、……あーあー、なに泣いてるの。フォーク置いて、こっちにおいで」
食事中に行儀は悪いが緊急事態だ。
愛しい女が泣いている。
自分は千夏を抱き寄せて、そのまましばらく抱きしめたんだ。
最初のコメントを投稿しよう!