第六章 霊媒師こぼれ話_ジャッキーと占い師

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「千夏、自分は____」 言いかけた……が、続く言葉を当の千夏が遮った。 「……ご、ごめん! 今話す事じゃないよね、ジャッキーおなか空いてるでししょう? 私もおなかペコペコなんだ、先にゴハン食べちゃおう! 話はあとで」 大袈裟に腹をさすって ”ゴハンゴハン” とおどけているが、顔がかすかにこわばっている。 緊張しているのだろうか。 だとしたら、千夏のペースに合わせてやるのが一番だ。 温かいものを口にしながら、ゆっくりと話をすれば良い。 優先すべきは自分じゃない、千夏なのだから。 …… ………… ……………… 「それでね、今日は朝から(撮影)現場に行ったのに、結局撮ったのは午後になってからなの! 撮影よりも待ちの方が長かった! まぁ、そうは言っても、エキストラなんて大体いつもそうだけど」 いつものボヤキだ。 エキストラの撮影後は決まって必ずこれを言う。 困った笑顔で文句を言ったその後は、セットで同じく決まった言葉を言うはずなんだ。 ____いつか絶対エキストラから卒業してやる、 ____主演になったら私のペースで撮影するの、 だが……今夜はそれが出てこない。 代わりに千夏が言ったのは、 「なんか……疲れたなぁ。いつまで経っても芽が出ないし、エキストラのギャラは安いし。アルバイトを掛け持ちしても、家賃とレッスン代でほとんどなくなっちゃうし。田舎の親にも心配かけっぱなしだよ。もうスッパリ諦めた方が良いんだろうな」 これだったんだ。 疲れた……か。 確かに大変だとは思うよ。 自分と違って千夏は一人暮らしだし、生活費もレッスン代もすべて千夏が払ってる。 そんな千夏が心配で、なにかの足しになれば良いと、金を渡そうとした事もあった。 だが受け取らなかった。 好きでしている事だから、自分で決めた事だからと、頑固なまでに拒否をしたんだ。 金がなくても演技が出来ればそれで良い、そう言い切っていたのに。 背中を丸めてフォークを持って、千夏はサラダをつっついている。 腹が減ったと言ってた割には、食事はぜんぜん進んでいない。 「ねぇ、千夏(ちな)は俳優を諦めるって言ったけど、それは本心なの?」 自分もサラダを食べながら、いいタイミングだとくすぶる疑問を口にした。 すると千夏はフォークを宙に止めたまま、 「……本心だよ。少し疲れちゃったんだぁ。今は演技よりもジャッキーと一緒にいたい。時間のすべてをジャッキーに使いたい。…………あ、こんな言い方重かった? ……ごめん」 自分はなにも言っていないのに、千夏は一人で落ちてしまった。 明らかに様子がおかしい。 「重たくなんかない、千夏の気持ちが嬉しいよ。ほら、大丈夫だから顔をあげて、……あーあー、なに泣いてるの。フォーク置いて、こっちにおいで」 食事中に行儀は悪いが緊急事態だ。 愛しい女が泣いている。 自分は千夏を抱き寄せて、そのまましばらく抱きしめたんだ。
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