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千夏は素直に自分にもたれ、小さく息を吐いていた。
こんな千夏は初めてだ。
本当に疲れてしまったのだろうか。
諦めて後悔しないだろうか。
千夏の頭を胸に抱き、そんな事を考えていた。
やめるのは簡単だ。
事務所に行ってその旨を伝えればいいのだから。
だが、千夏の仕事は一般事務のそれとは違う。
やめました、だけどやっぱり復帰したいです、……そう言ったとして戻れる保証はどこにもない。
入るは狭き険しき門で、俳優志願は星の数程。
一時の迷いでやめてしまえば、もう二度と俳優には戻れない。
それでもやめたいのだろうか。
だが……今の千夏は疲労が色濃く滲んでる。
細い体は折れそうで、笑顔を見せるがかすかに強張り口調もおかしい。
元気に言葉を紡いだ次には、一気に地まで落ちるんだ。
千夏は言った。
少し疲れたと、
自分と一緒にいたいのだと、
時間のすべてを自分の為に使いたいと、……自分がいれば千夏は元気になれるのか?
一緒に住むのが望みなら、その願いを叶えてやれるのは自分だけ。
「ジャッキー……変なコト言ってごめんね、でも私……」
か細い声、千夏が自分のシャツを掴んでそう言った。
細い手首、白い肌には血管が薄青色に透けている。
「……ううん、少しも変じゃないよ。疲れてしまったの? もう頑張れないくらいに? ああ……誤解しないで、無理に頑張れという意味じゃないんだ。ただ、俳優を諦めて後悔しないか心配でね。今は確かにエキストラが中心だけど、これからどうなるか分からないじゃない。そうだよ、占いでも言われt、」
「やめて……!」
話しの途中、”占い” と言いかけて、それを千夏が遮った。
通る声で、大きな声で、……こんな事も初めてだ。
千夏は自分の腕の中、上げた顔は目が赤い。
「千夏……?」
「……ああ……ごめん、大きな声出しちゃた。……今は占いの話は関係ないから、それでつい……本当にごめん」
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