第六章 霊媒師こぼれ話_ジャッキーと占い師

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…… ………… キィ、と軋んだ音がして洗面所のドアが開く。 自分は咄嗟に手にあるモノ(・・)を、テーブル下に滑らせた。 千夏はそれに気づく事なく、自分の隣にストンと座る。 「ごめんね、遅くなっちゃった」 そう言って見上げる顔は、いつもよりも薄ら蒼くて力弱い。 「…………いや、そんなに遅くなかったよ。それより前髪が濡れてる、……髪をとめないで、そのまま洗ったんだろう」 言いながら千夏の髪を指ですくう。 ホワイトベージュの淡い色。 艶があり、バニラのような甘い香りが鼻孔をくすぐる。 「……うん、だって面倒だったんだもん。顔と一緒にタオルで擦れば良いかなぁって」 千夏は小さく肩をすぼめて言い訳をした。 この子はなんでも器用にこなす……が、千夏自身に関する事は雑なんだ。 付き合いたての最初の頃、見た目と違った雑さ加減に笑ったのを覚えてる。 千夏、……千夏。 綺麗なのに可愛らしくて、か弱そうで芯は強い。 自分の名前を幸せそうに何度も呼んで、……千夏の声、千夏の笑顔、千夏の優しさ、すべてが愛しくすべてが尊い。 千夏、愛してる……だからこそ、自分は千夏を応援したい。 腕にもたれて甘える千夏、このまま強く抱きしめたいと思うけど、……その前に最後の確認だ。 「ねぇ、千夏は本気で俳優をやめたいの?」 前置きを吹っ飛ばし、単刀直入に聞いてみた。 すると千夏は、 「…………うん、言ったでしょう? 色々疲れちゃったの。演技よりもジャッキーと一緒にいたいんだ」 薄ら青い顔色のまま、淋しそうにそう言った。 そんな表情(かお)して、……そんな表情(かお)をさせたくないよ。 「ふぅん……本当に疲れただけ? 占いで言われた事も関係してるんじゃないの? さっき ”占い” って言っただけで、いきなり怒鳴ったじゃない」 「あ……ごめん。びっくりしたよね。怒鳴るつもりじゃなかったんだ。でも、占いの話はしたくなかったの。だってアレはインチキだもん、」 「インチキ? そうかな、当たるって有名みたいじゃない。千夏は案外信じてるんじゃないの? 芸能人って、”ゲン担ぎ” とか ”占い” とか拘る人が多いからさ。”エキストラ専門” とは言え千夏も例にもれずかなって」 ああ……酷い事を言ってるな。 エキストラのなにが悪い、主演だけじゃ映画もドラマも作れない。 役名が無くても、セリフが無くても、エキストラがいなければ成り立たないというのに。 自分だって似たようなものだ。 主演の代わりに危険を演じて金をもらう、ただの名も無いスタントマンだ。
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