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「エキストラ専門って……どうしたの? 普段はそんな事言わないのに、」
自分から少し身体を離した千夏は訝し気な表情だ。
ごめんな、傷付けてるよな。
本当はそんな事は思っていない、……だが。
「だってホントの事だろう? 千夏がセリフを覚えてるコト見た事がないもんな」
心を鬼に、千夏を上から見下ろしながら半笑いで吐き捨てた。
「……酷い……なんでそんな事言うの? ジャッキー、本当にどうしたの? いつも応援してくれるのに、エキストラをばかにしたりしないのに、……なんで? そんな事言われたら……悲しいよ」
見上げる両目に涙を溜めて、”悲しい” とかすれた声でそう言った。
酷い事を言われてるのに、優しい千夏は自分を責めたりしないんだ。
「……はぁ、千夏はやっぱり子供だな。考えが浅いんだよ。今までだって思ってた、言わなかっただけだ。ねぇ、もう一回聞くけど、千夏は本当に俳優をやめるのかい?」
キメの細かい綺麗な肌、千夏の頬を片手で包んでこっちを向かせる。
長いまつ毛は水を含んで重たげだ。
「………………うん……そのつもりで、……だって私、ジャッキーとずっと一緒にいたいから、だから、」
まだ、……まだそう言ってくれるのか。
自分の口はあなたをこんなに傷付けてるのに、それでもまだ。
「ああ、俳優やめて自分と一緒に暮らしたいと言っていたよね」
「う、うん……! も、もちろん、俳優やめたら別の仕事をするつもり。一緒に住んでもジャッキーばかりに負担をかけるつもりはないの。仕事してご飯作って掃除して、毎日毎日一緒にいたいの」
千夏と一緒に暮らしたら、毎日が楽しくて毎日が幸せなのだろうな。
それは容易に想像出来る、だけど自分は千夏を応援したいんだ。
「悪いけど、自分にそのつもりはない。いや、正確に言うと ”そのつもりは無くなった” かな」
言葉を発し、胃の辺りがズキズキと痛みだす。
千夏は無言で目を見開くと、そこから涙が後から後から溢れ出して止まらない。
「ど、どゆこと? わ、私と一緒に住まないの……? そのつもりが無くなったって……最初はそのつもりだったの?」
あからさまに声が震えて、いや……声だけじゃない。
細い肩も指先も、千夏のすべてが震えてる。
ここまで言わなくても良かったのか……正解が分からない。
だけどもう、走り出しているんだよ。
中途半端に期待を持たせて、引っ張る方が酷と言うもの。
後には退けないんだ。
「それも少し違うかな。はぁぁ……もうメンドウだ、正直に言うよ。自分はぶちゃけ ”千夏個人” と言うよりも ”芸能人の千夏” が好きなの。ほら、エキストラ専門とはいえ芸能人の端くれだろ? そういう子が彼女だと仲間内で自慢出来る。自分のカノジョは若くて綺麗な芸能人だぞってさ、」
「………………なに……言ってるの?」
「なにって真実だよ。それなのに俳優やめて自分と暮らす? 冗談はヤメテくれ。それでなくても1人の女に縛られるのは勘弁なのに、一般人になった千夏と一緒に暮らしてなんのメリットがあるんだよ。少しは空気を読む勉強をした方が良い」
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