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「酷い……」
口の端から一言漏らして涙を落とす、千夏の大きな瞳の中には嫌な顔した自分が映り込んでいる。
なぁ千夏。
自分はうまく喋れてるかい?
酷い言葉を次から次へと垂れ流す、最悪の男だろう?
自分は演技は初めてだけど、なかなかどうして上手いもんだと驚いている。
千夏……自分を憎んでくれ、愛想をつかしてくれ。
初めて千夏を泣かせてしまった、……傷付けてごめんな、本当にごめんな。
だが、あんな物を見てしまったら、こうするしかないと思った。
さっき見たカバンの中にあった物、雑誌大の薄めの本で、……それは台本だったんだ。
表紙には ”(仮)” と書かれた作品名、中を開くと縦に書かれたセリフが並び、余白部分は千夏が書いたと思われる、小さな文字がビッシリと書き込まれていた。
何度も何度も読み込んでるのか、端は切れ、形は歪み、ページは丸まり自然と捲り上がってしまう。
台本がこんなになるまでセリフを読み解き、エキストラの現場にさえも持ち込んで……これのどこが ”俳優を諦める”、なんだよ。
自分に言った千夏の言葉はぜんぶ嘘だ。
千夏は演技が大好きで、演じる事は呼吸をするのと同じ事、それは今でも変わってないんだ。
表紙には【✕✕✕✕(仮)・20✕✕年✕月✕✕日オーディション用】とあった。
これはおそらく朝のメールの記されていた、
____マネージャーからあるオーディションを受けないかって言われてるの、
____いつになく熱心でどうしても受けて来いってウルサイんだ、
そのオーディションに違いない。
メールには ”気乗りがしなくて受けたくない” とあったけど、受けない理由は 気乗り云々じゃない、十中八九自分のせいだ。
受けないと決めていながら台本を読み込み、……本当は受けたいに決まってる。
千夏はそれを諦めて、それを隠して自分と一緒にいたいと言った。
”疲れたから”、”芽が出ないから”、”ジャッキーが好きだから”、理由をいくつか並べていたが……それだけじゃない、あの占いも原因の1つだろう。
あの日。
自分はそのうち事故に遭い、両足を失うと言われた。
反対に千夏の未来は輝かしくて、大女優になるのだと言われた……が、それは条件付きだった。
大女優になりたいのなら、その未来を勝ち取りたいなら恋人と、……すなわち自分と別れなければ実現しない。
占いの直後から、千夏はそれをひどく気にしていた。
それはたぶん、自分が予想するよりも、もっと深く気にしていたのだろう。
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