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「それ……本気で言ってるの?」
目から涙をボタボタ落とし、”信じられない”、そんな顔して千夏が聞いた。
震える両手を自分に伸ばし、その指先は ”絡めてくれ” と言っている。
だがそれを、身を切る思いで振り払う。
「ああ、本気だ。ウソをついてなんになる。言っただろう? 芸能人じゃなくなる千夏は用無しだ。取り繕っても仕方がない」
「用無しって……そんな言い方……」
ああ……ああ、分かってる、酷いよな。
そんな事は思ってない、誓って言える。
だけど千夏は自分の為ならなんだってしてしまう。
仕事で疲れて帰って来ても、こうやって食事を作り笑顔で迎えてくれるんだ。
今までだってそうだった、千夏にはたくさんの優しさをもらってきた。
これ以上はもらえないし、千夏のジャマもしたくない。
キッカケは占いだが、この先もなにかあるたび、自分の為に千夏は夢を諦めるだろう。
そんな事、させる訳にはいかないよ。
だから、
「はぁぁ……メンドクサイ女だな。じゃあどう言えば良いの? どう言ったらゴネないで別れてくれる? だから子供は嫌なんだ。……ああ、そうだ。最後に1つ、本当の事を教えてあげる。少し前の春頃、自分と千夏は一カ月会っていなかっただろう? それはなんでだと思う?」
忙しかった、……あの頃は現場が重なり、事故がないよう訓練に力を入れて、それから、この仕事は ”繋がり” がモノを言うからスタッフ達との飲みをたくさん入れてしまった。
悪気はないけど、ついつい千夏を後にまわして気づけば時間が経っていたんだ。
「仕事が……忙しかったんでしょう……?」
かすれた声で、千夏はまるで探るようにそう聞いた。
胃のあたりがさっきよりも鋭く痛む……が、それを隠してその代わり。
下衆に笑ってもうひと踏ん張り、自分は千夏にこう吐いた。
「まぁ、仕事が忙しかったのはあるよ。だけどそれだけじゃない。千夏に内緒で別の女の部屋に行ってた。その子も芸能人だ。駆け出しだけど歌い手で、」
言いかけたその瞬間、パンッと乾いた音がした。
右頬に痛みが走る、その頬がジンジン熱を帯びていく。
千夏は歯を食い縛って泣いていた。
白い肌は青ざめて、前髪が顔に影を作っているが、その目には怒りと悲しみが見てとれた____
____本当は、薄ら笑いを顔に浮かべて、そのまま帰るつもりでいた。
ここまで言えば嫌ってくれる。
今日の明日じゃ無理だろうけど、明々後日には愛想つかせて自分の事は忘れてくれると思ったからだ。
なのに……そんな気持ちと相反し、気づけば千夏を抱きしめていた。
華奢な身体、バニラの匂い、視界に入るホワイトベージュの艶の髪。
千夏……愛しい千夏。
どうか夢を諦めないでくれ。
どうか自分を切り捨てて、どうか前を向いてくれ。
あなたはとても美しく、あなたはとても才能があり、あなたの未来は宇宙のように輝かしいのだから。
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