第六章 霊媒師こぼれ話_ジャッキーと占い師

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ランチは駅近のカフェにした。 ここには何度か来た事がある。 野菜多めなヘルシーメニュー、エイミーさんをはじめ、”おくりび” みんなのお気に入りだ。 ランチタイムのど真ん中、平日とは言えさすがに少しは待たされると思ったが、運の良い事にテラスの席なら空いてると、待たずにすぐに案内された。 男2人と猫又と(大福は他の人には視えないが)、仲良く向かいに腰をおろしてメニューを広げた。 「僕は……あ! Aランチにする! 鶏肉のグリルとソーセージだって! めちゃくちゃ美味しそうだよ」 エイミーさんがAランチなら自分はBで決定だ。 違うものをオーダーすれば、互いにシェアが出来るしね。 ……と、ランチがくるまで他愛のない話で盛り上がる。 昨日の現場はこんなだったと話してみたり、レシピの話をしてみたり、そうかと思うと社長のモノマネを披露し合って笑ってみたりと、楽しい楽しいひと時だ。 …… ………… 「お待たせしましたぁ。Aランチのお客様は……はい、こちらです。Bランチのお客様はこちら。どうぞごゆっくり」 若い店員が運んでくれたプレートは、所狭しと御馳走が並んでて、見た瞬間に腹のむしがググゥと鳴った。 エイミーさんはからかうように笑ったけれど、その直後、彼の腹もギューっと大きく鳴ったんだ。 「参ったな、ジャッキーさんにイジワル言ったら、思いっきりブーメランになっちゃった……って、……ん? …………ん? えぇ!? んんんー!?」 話の途中、エイミーさんが謎の声をあげた。 そして同時。 彼の目線は横に逸れ、自分の後ろを目を見開いて見つめてるんだ。 「……どうしたの? ユーレーでも視た?」 一般人には通じにくい、霊媒師ならアルアルな定型文で聞いてみた。 すると彼は口をパクパクさせながら、自分に顔を近づけて、小さな声で言ったんだ。 「ジャッキーさん(コソコソ)後ろ、後ろをさり気なく見てみて(ヒソヒソ)。このカフェの隣のお店のイタリアン……のテラス席にいる人、女優の白川千夏じゃない? わぁぁぁ! すっごい綺麗ぃぃぃ!! 僕、芸能人を初めて生で見た! うわ……オーラがハンパないよ……撮影かな……まわりに警備の人いっぱい立ってるし人だかりもスゴイや!」 エイミーさんのはしゃぐ声、聞いたと同時に心臓がドクンと大きく跳ね上がる、…………白川……千夏? 自分は極力目立たないよう、ゆっくりと後ろを向いた。 顔を伏せ、目線だけをそこにやる……と。 薄青色の服を着た、眩いばかりの女性がそこに座っていたんだ。 形の良い脚を斜めに優雅に組んで、濃いブラウンの髪がゆるく巻かれてる。 抜けるような白い肌、整った目鼻立ち。 あの頃よりも大人になった、美しく凛と佇む千夏がいたんだ。
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