472人が本棚に入れています
本棚に追加
その、……遠い過去の、最後に会ったあの日の晩。
自分はあなたに酷い事を言ったよね。
そして、あなたを傷つけ泣かせてしまった。
本当にすまないと思ってる……が、どうしても夢を追ってほしかったんだ。
だから必死に嘘をついた。
あなたの事が嫌いだと、あなたの他にも女がいると、あなたに用はないのだと、そう言ったんだ。
怒ったあなたは自分の頬を打ったから、上手くいったとそのまま部屋を出ようとしたのに、弱い自分は最後の最後で、気づけばあなたを抱きしめていた。
あなたはあの時、
____なんで……?
と聞いた。
自分はそれにこたえる事が出来なくて、そのまま部屋を後にしたんだ。
それから数カ月後。
あなたがオーデションに勝ち抜いた事を知り、心の底からホッとした。
受けてくれた、受かってくれた、あとは未来に進むだけだと、まるで自分の事のように嬉しかったのを覚えてる。
さらにそれから数年後には、占いの予言の通りに自分は足を失った。
やっぱり別れて良かったよ。
あなたは優しい人だから、あのままいたら仕事もなにも放り出してしまうだろうから。
今日ここで、……思いがけずに千夏に会えて、驚いたけど嬉しかった。
あなたはみんなに愛されている。
みんながあなたの演技を待ってる。
そんなあなたを密かに誇りに思ってる。
……
…………
………………
「……でね、僕が1番好きなドラマはミステリーの犯人役で、その時の白川さんは、…………あーーーっ! ヤバイ! 時間! もう1時になっちゃうぅ!」
突如、エイミーさんが大声を上げた。
時間がどうのと騒いでいるが……ワオ、本当だ、今12時58分じゃない。
でもまぁ、大丈夫でしょう。
ウチの会社はアバウトだから、5分や10分、休憩時間が長くなっても怒られないよと思っていたのに。
根が真面目なエイミーさんは、慌てに慌ててこう言ったんだ。
「急いで出ないと! お金払ってダッシュで帰れば5分くらいの遅刻ですむかも! ジャッキーさん、行こう!」
……と、その時だった。
エイミーさんの大きな声に反応したのか、それとも ”ジャッキー” という名前の方に反応したのか、隣のテラスで優雅に座る千夏がこちらに向いたんだ。
「ちょ、ジャッキーさんなにノンビリしてるのよ、行くy……って、え……? ウソ! 白川さんがコッチ見てる! うわ……やっぱしめちゃ綺麗……とりあえず拝んどこ……(合掌)」
手を合わせるエイミーさん、……自分は横に立ったまま、なにも言えずに動く事さえ出来ずにいた。
最初のコメントを投稿しよう!