第一章 霊媒師こぼれ話_岡村英海

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やっとのコトで伊藤さんが泣き止んだ。 なもんで、奥様からいただいたおにぎりを食べようと、1つは僕、もう1つは伊藤さんと、2人仲良く分けたんだ。 「伊藤さん、お腹空いてません? 奥様お手製のおにぎりがあるから一緒に食べましょうよ。水筒にお茶もあるし、チョット早い朝ゴハンです」 「やぁ! おいしそうだ! 京香さんのおにぎりは大きくて具沢山で最高なんだよ。現場が事務所に近い時は、みんなの分を握ってさ、自転車で届けてくれたんだ。……懐かしいなぁ。でも……私は良いから岡村君が食べなさい。キミは若いんだから」 目を細めて懐かしむ伊藤さん、だけど自分は食べないという。 なんで? 一緒に食べた方がおいしいのに。 「一緒に食べましょうよ。大丈夫、だって見て! おにぎり1つがこんなにデカイんだもん。これで充分お腹が膨れる。僕のコト若いって言いますけどね、伊藤さんだって充分若いですよ。ヨユーで完徹してるじゃないですか。僕なんてもう眠くて眠くて……ふわぁぁぁぁ」 「あ……うん、アリガト。でもね、私は食べるコトがでk……」 「んも、遠慮しないでください! こういうのは一緒に食べたら倍おいしいの。だからほら、お茶もあるし(コポコポコポコポ……)、さぁ! おにぎりどうぞ召し上がれ!」 なんて、僕が作ったんじゃないけど、遠慮している伊藤さんに是非とも食べてもらいたかったんだ。 「召し上がれって、ありがとね、でも私は、…………え? ……あれ? なんだこれ……あ……で、でもこれ……う、うそだろ………………………………あぁ……そんな……こんな事って………………う、うまい……、」 な、なんだ……? 僕は伊藤さんに釘付けだった。 お皿にのったおにぎりをジッと見つめて手は付けず、だけど口はモゴモゴさせて、「うまいうまい」と号泣してる。 意味がわからなかった……だから僕は言ったんだ。 「エアーじゃなくて食べてください」って、だけど彼は顔をクシャクシャに歪ませて、「食べてるよ、……食べてるんだ、ありがとう、ありがとう」と、それしか言わなかったのだ。
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