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視線がぶつかる、……千夏は大きく目を開き、やはり言葉を発する事なく固まっていた。
おそらく千夏は気がついたのだろう。
自分が ”ジャッキー” であると、酷い言葉で傷つけた最低な男がいると。
本当は、気づかれないままそっと去ろうと思っていたのに……すまない、嫌な思いをさせてるね。
すぐに行くから、千夏の邪魔はしないから、だからどうか安心して。
「エイミーさん、行こうか」
いまだ合掌、拝み続ける若きエースの肩を叩いて歩き出す。
千夏の視線を背中に感じ、それでも決して振り返らずに行こうとしたその刹那。
ガタッ!
音がして、条件反射で振り返る……と。
ああ、……ああ、
声が、出なかった。
隣のテラスで千夏は立って、なにも言わずにただただ自分を見てるんだ。
抜けるような白い肌、整った目鼻立ち、濃いブラウンの髪はゆるく巻かれてる。
薄青色の服はとても上品で、踵の高い黒のヒールは磨き込まれて艶々だ。
どこから見ても美しい、見た目も、立ち振る舞いも……すべてだ。
それなのに____
いつの間にかぶったのか。
いや……そもそも、そんなものをまだ持っていたのか。
今の千夏に到底似合うはずもない、色褪せた古い帽子をかぶっていたんだ。
遠い過去に、中野の街でワゴンで買った安物の野球帽。
千夏はそれを頭に乗せて、そして、声は出さずにこう言った。
____………………ありがとう、
と。
それはたったの数秒間の出来事だった。
千夏はすぐに帽子を取ると、横に置いてたカバンの中にしまい込み、カメラに向かってほほ笑んだ。
まるでなにもなかったかのように。
……
…………
………………
その日の帰り、電車の中で千夏の事を考えていた。
あの ”ありがとう” はどんな意味を持つのだろう。
千夏は自分を恨んでいたんじゃなかったのか。
…………ああ、だけど、
もしかしたら…………
あの子はとても頭が良くて、人の気持ちに敏感で、……だから後から、自分のウソに気がついたのかもしれないな。
人もたくさんいる中で、自分と千夏が言葉を交わすのは不可能だ。
それゆえに、”ありがとう” の一言に色んな意味を込めたのではないだろうか。
今となっては確かめようがないけれど、……でも、そんな気がしてならないんだ。
千夏、どうかあなたはこれからも頑張って。
もうきっと会う事はないだろうけど、今日会えたのは奇跡だと思ってるんだ。
あなたに会って、自分の心も救われた。
わだかまっていた罪の意識が ”ありがとう” の一言に溶かされたんだ。
自分こそありがとう、やっぱり千夏は素敵な女性だ。
そう、あなたは人に愛される、あなたは人に夢を与える。
あなたの演技はあなたにしか出来ない事で、自分はそれをずっと応援してるから。
第六章 霊媒師こぼれ話_ジャッキーと占い師__了
★こんばんは
ジャッキー編がようやく終わりました(*´ω`)ホッ
最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。
千夏とジャッキーを占った ”喫茶・かすり傷” の占い師の女性。
未来をズバズバ当てています。
霊力者でも、過去は視えても未来は視えないはずなのに、どうしてか……
本当は本編中に種明かしを入れようと思ったのですが、本編が長引いて、コレ入れるとあと3万文字くらい追加になるな……と断念しました💦
設定としては、占い師の女性は地球人ではありません。
ダーマン星の魔族で、人のフリして中野で喫茶店をしています。
ダーマン星の魔族は向こう50年くらいなら未来が視えます。
魔法を使うのがデフォルトの星で、黄泉の国の転送装置の陣を張ったのも彼らです。
また、魔法使いのフェアリーゴッドマザーも同じくダーマン星の出身です……と、書けなかった分、ここに書いてみたのですが……いつか、機会があればそのあたりを書けたらいいなぁと、密かに思っています。
またも長くなってしまいましたが、最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
深く感謝申し上げます(*´▽`*)
来週からの新章は、……誰にしようか迷い中です。
楽しんで迷おうと思いますだ✨
たまこ
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