第一章 霊媒師こぼれ話_岡村英海

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変な伊藤さん、おにぎり食べたらいいのに……と思ったが、そこでハタと気が付いた。 もしかしたら、食べないんじゃなく食べられないのかもしれない。 だってこんなに痩せちゃったんだ。 なにかのご病気を抱えてらして、それが原因で控えてるのかも。 そう考えたらしつこく勧めるのはかえって良くない。 だから結局、おにぎりは2つとも僕がいただいたんだ。 そこから、僕の記憶は切れ切れだ。 完徹の明け方。 空は薄っすら明るいけども、まだまだ暗さが残ってる。 伊藤さんは、 「おつかれさま、眠いだろう? そこのソファで眠るといいよ」 とニコニコ笑って指さした。 僕はそれにすぐさま頷く 。 だって限界、ただでさえ眠いのにおにぎり2つでお腹が満たされ意識は朦朧。 フラフラしながら倒れるように横になると、僕の傍で伊藤さんが話し始めて…… 「岡村君……今夜はありがとう、キミに会えて良かった……たくさん話してくれて……仕事を手伝わしてくれて……ありがとう、おにぎりもおいしかった……もう……充分だ……なんとなくね……向こう(・・・)に逝きたくなくて……社長の傍を……ウロウロしてたんだ……」 ん……?  どういう意味……? なんの話……? 「だけど……社長は鈍感だから……全然気付いてくれないの……笑っちゃうよねぇ……社長に……伝えてくれる? あなたの元で働けて良かった……私に家族はいなかったけど……あなたは私の兄のようだった……と……倒れた私の面倒見てくれて……ありがとう……先に向こう(・・・)で待ってるって……それから……それから……ああ……時間切れ……お迎えが来ちゃった」 お迎え……って? 今……ご家族はいないって……言ってたのに…… 「岡村君……ありがとね……キミもまたね……またいつか……必ず……会お……」 伊藤さん……どこ行くの……? もっと……ちゃんと……分かるように……説明し…… 深い眠りに落ちる寸前。 最後の記憶は伊藤さんの優しい笑顔と、窓に映る眩しい光。 朝日にしては強すぎる、……なんの光? 窓の外を見てみるか……と思ったのに。 僕はそれを見るも事なく、意識を手放したのだ。
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