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変な伊藤さん、おにぎり食べたらいいのに……と思ったが、そこでハタと気が付いた。
もしかしたら、食べないんじゃなく食べられないのかもしれない。
だってこんなに痩せちゃったんだ。
なにかのご病気を抱えてらして、それが原因で控えてるのかも。
そう考えたらしつこく勧めるのはかえって良くない。
だから結局、おにぎりは2つとも僕がいただいたんだ。
そこから、僕の記憶は切れ切れだ。
完徹の明け方。
空は薄っすら明るいけども、まだまだ暗さが残ってる。
伊藤さんは、
「おつかれさま、眠いだろう? そこのソファで眠るといいよ」
とニコニコ笑って指さした。
僕はそれにすぐさま頷く 。
だって限界、ただでさえ眠いのにおにぎり2つでお腹が満たされ意識は朦朧。
フラフラしながら倒れるように横になると、僕の傍で伊藤さんが話し始めて……
「岡村君……今夜はありがとう、キミに会えて良かった……たくさん話してくれて……仕事を手伝わしてくれて……ありがとう、おにぎりもおいしかった……もう……充分だ……なんとなくね……向こうに逝きたくなくて……社長の傍を……ウロウロしてたんだ……」
ん……?
どういう意味……?
なんの話……?
「だけど……社長は鈍感だから……全然気付いてくれないの……笑っちゃうよねぇ……社長に……伝えてくれる? あなたの元で働けて良かった……私に家族はいなかったけど……あなたは私の兄のようだった……と……倒れた私の面倒見てくれて……ありがとう……先に向こうで待ってるって……それから……それから……ああ……時間切れ……お迎えが来ちゃった」
お迎え……って?
今……ご家族はいないって……言ってたのに……
「岡村君……ありがとね……キミもまたね……またいつか……必ず……会お……」
伊藤さん……どこ行くの……?
もっと……ちゃんと……分かるように……説明し……
深い眠りに落ちる寸前。
最後の記憶は伊藤さんの優しい笑顔と、窓に映る眩しい光。
朝日にしては強すぎる、……なんの光? 窓の外を見てみるか……と思ったのに。
僕はそれを見るも事なく、意識を手放したのだ。
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