第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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走って走って走り続けた東の端っこ。 現れたのは、虹ではあまり視かけない人工的な二階建て。 虹の国の各種手続き事務センターだ(メインセンターではない、メインは他にある)。 コンクリートの外壁に、四角い大きな窓ガラス、玄関まわりはキレイなお花が咲いているけど動物達はほとんどいない。 どうして誰もいないのか、その理由は至極簡単。 普通に生活している分には、こんな所に用事は無いから。 用事があるのは特殊な事情の動物達だけ。 たとえば……そう。 私のように飼い主の迎えが無くて現世送りが決定したとか(ココには ”現世転送装置” がある、アレを装置と呼んで良いかは定かじゃないが)、それとあとは、なにかの理由で1度虹の国を出て、再び戻って定住する時。 要は再入国の手続きね。 ほかにも色々あるけど主な機能はこの2つ。 今回おはぎは、虹 に 無 許 可 で 現世に行ったパターンゆえに後者にあたる。 早く行ってあげないと今頃きっと苦労をしてるに違いない。 おはぎと、おはぎを受け持つ虹の国の担当者も。 …… ………… ……………… 正面入り口。 そこから入ってテチテチ奥へと進んでくと、長い廊下にドアがたくさん並んでる。 建物内はやたらと広く、コドモだったら迷子になりそう。 とは言え私も春に1度来たっきり、だからそんなに詳しくないけど。 ああ、あの時は不安だったわねぇ。 お姉ちゃんの迎えがなくて、イチニャンだけでの現世送りが辛くて惨めでたまらなかった。 それがまさか……うなははは! 着いて早々、英海(ひでみ)と出会う大幸運が待ってるなんて、誰が想像出来ようか。 愛するお姉ちゃん(ひと)に忘れ去られた野良猫を、英海(ひでみ)は優しく抱えてくれて……あれはまさに運命の出逢いだった。 英海(ひでみ)は私を抱っこしながら一生大事にするからと、ずっと傍にいてくれと、そう言ったあと ”大福” という新しい名前までつけてくれたのだ。 それ以来毎日仲良く暮らしてる、それはそれは大切にされている。 あの子は私をペットでもなく式神でもなく、家族なんだといつも言う。 最初は英海(ひでみ)だけだったけど、トウとカアも家族になって、命のあるなし関係なしに猫達も家族になった。 惨めなはずの野良猫は、宇宙でイチバン幸せな猫又になったのだ。 英海(ひでみ)の為ならなんでも出来る、家族の為でもなんでも出来る、…………にゃもんで、まずは末っ子、おはぎを探し出さなくちゃ。 スンスンスン……コッチかしら……?   スンスンスン……おはぎは甘いミルクみたいな匂いがするの。 スンスンs……うな、……アッチみたいね。 犬の子みたいに匂いを追ってテチテチ廊下を歩いて行くと、一番奥のドアの前に辿り着く。 ドアは閉まっているけれど……ちょこざいな、これしき余裕で開けれるわ。 ピョン!(前足でドアノブ掴んでぶら下がりー!) ガチャ!(体重かけて横捻りっ!) キィィィ(少し開いたら後ろ足で壁を蹴る、ティ!) シュタッ(ドア開いた!前足はなして無事着地!) 開いたドアからテチテチ中へ入って行くと……おはぎいた!
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