第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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あれだけあったオヤツの山は、にゃっという間に無くなった。 私も含めた総勢9匹。 トウとカアが持たせてくれた、特別美味しいオヤツを食べて大満足。 この後みんなで積もる話や現世の話に花が咲いて盛り上がり……とはならなかった。 そりゃそうにゃ。 ”猫” という名の語源は ”寝る子” で伊達じゃない(諸説アリ)。 その証拠に…… 『へにゃぁ……(ウトウト)オヤツおいしかったにゃぁん……(うつらうつら)おなかがポンポンで……(ユラユラ)もうたべられないにゃぁ……』 おはぎが船を漕ぎだした。 それはオトナもおんなじで、幸せいっぱい腹いっぱいな猫達も一緒になって船を漕ぎだし……そしてとうとう、サン以外は全ニャン揃ってスヨスヨ眠りに落ちたのだ。 …… ………… 『みんな寝ちゃったわね、』 私が言うとサンは短く ”ええ” と言い、宙を泳ぐサカナのライトにピョンッとジャンプでタッチした。 途端、明かりが絞られ暗くなる。 賑やかだった部屋は静かで、猫達の寝息だけが重なり聞こえるだけだった。 薄暗い部屋の中。 私とサンは向かい合わせに寝転んだ。 サンは三毛の熟女猫。 しっかり猫で面倒視が良く礼儀も正しい。 性格的には自由気ままな猫と言うより、犬に近いものがある。 享年は19才で(人の子換算なら92才)猫にしては大往生だ。 サンは鼻から息を吐くと、静かな声でこう言った。 『小雪さん、現世ではおはぎがお世話になりました。それとオヤツもありがとうございます。オヤツ、とっても美味しかった……ううん、それだけじゃない。久しぶりにトウとカアと英海(ひでみ)の匂いが嗅げたのも嬉しかった。私も、みんなも、……本当に涙が出る程嬉しかったの』 目を細めて髭を前に、長い尻尾はゆっくり左右に揺れている。 トラセットやおはぎみたいに大はしゃぎはしないけど、嬉しい気持ちは十分伝わる。 そうよね、……嬉しいわよね。 サンは一番年上で ”カア代行” の役目もあるから、いつでもしっかりしてるけど、トウとカアの子供であるのはみんなと同じなんだもの。 大好きに決まってる、会いたいに決まってる、匂いを嗅げて嬉しいに決まってる。 だから私は話したの。 トウもカアも、もちろん英海(ひでみ)も、今でもみんなを愛してて、家の中にはみんなの写真が飾ってあって、みんなの形見も大事に大事にとってあり、いつか命を終えた時には必ず虹まで迎えにいく。 それまでは子供達で仲良く過ごし、良く食べて良く眠り良く遊び、元気に笑って待っててほしいとと言っていた……と。
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