第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

15/80
前へ
/370ページ
次へ
うな、そうだった。 (ココ)に来て、岡村家の子供になったと言ったその後、みんなで一緒にオヤツ食べての大盛り上がり、本来の目的を話してないんだわ。 黒目真ん丸、……サンは戸惑い、そしてちょっぴり心配そうに私を視てる。 そんなサンの頭を舐めて、他の仔達を起こさないよう、 『あのね、』 と……小さな声で、なにをしに虹に戻ってきたのか話したの。 …… ………… ……………… 『そう……小雪さんは、お姉さんに会いにきたのね……』 サンは短くそう呟くと、なんとも言えない顔をした。 『うな……そうなの。英海(ひでみ)に背中を押してもらって、ううん、トウとカアにも押してもらった。言われたのよ、”今でも前の飼い主さんの事が好きなんでしょう?” って。……確かにね、キライになんてなれないわ。それがたとえ……何十年も待ちに待ったその挙句、私の事を存在ごと忘れ去ってしまったとしても、…………それでもやっぱり大好きなのよ』 そう、好き、……大好き。 野良猫として生きてた頃、まだ生後間もなかった頃。 母猫とはぐれてしまってイチニャンぽっちになってしまった。 私は不安で恐怖を感じ、必死になって母の事を探したの。 道を行き交う大きな車に怯えつつ、 棒を振り上げ追いかけてくる悪童共から走って逃げて、 降り出す雨に体温奪われ身体を震わせ、 寒くて寒くてたまらなかった、 お腹が空いて辛くて辛くて泣いてしまった、 毎日毎晩オカアニャンを探したけれど、 兄弟達も探したけれど、 どこにもいないし見つからない、 そんな事をしているうちに、 いつしか私は歩く事もままならなくなっていた、 喉の渇きと空腹と、孤独と不安で気持ちも命も削られていく、 擦り傷だらけの肉球が、硬い地面に擦れるたびに痛みが走る、 もう……無理、歩けない、 もう……疲れた、立ってられない、 あの時私は限界だった、 何日も食べてない、何日も眠れない、身体に力が入らない、 朦朧として霞む視界、 にゃ……と思ったその瞬間、 地面が揺れて私は道に倒れてしまい、そのまま意識を失った、 が、すぐに、 身体中を刺されるような強い痛みに引き戻されて目が覚めた、 怖くて痛くて顔を上げるとまわりは真っ黒、 バサッ! バサッ! と不気味な音と、カァ! カァ! と身の毛もよだつ怖い声、これは…………カラスだ! オカアニャンが前に言ってた、 仔猫はカラスに襲われるから見かけたら逃げなさいって、 どこかの陰に隠れなさいって、 逃げなくちゃ、隠れなくっちゃ、うな……でも動けないよ、 囲まれてるし、そもそも力が入らないから立ち上がれない、 痛いよ、怖いよ、オカアニャン助け……ああそうだ、 オカアニャンはいない、はぐれたんだもの、 もうダメだ、このままイチニャンぽっちで死んじゃうんだ、 …………と、すべてを諦めかけた時、 ____こ、こらーーー! ____そ、そ、その猫ちゃんからはなれろーーー! ____わ、悪いカラスめ! ど、どっか行け! ____猫ちゃんをいじめるなーーー! 小さな、とっても小さな人の子が、 震えてるけど大きな声を張り上げて、走り寄ってきてくれた。 そう、それが私とお姉ちゃんの出逢いだったのよ。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

472人が本棚に入れています
本棚に追加