472人が本棚に入れています
本棚に追加
うな、そうだった。
家に来て、岡村家の子供になったと言ったその後、みんなで一緒にオヤツ食べての大盛り上がり、本来の目的を話してないんだわ。
黒目真ん丸、……サンは戸惑い、そしてちょっぴり心配そうに私を視てる。
そんなサンの頭を舐めて、他の仔達を起こさないよう、
『あのね、』
と……小さな声で、なにをしに虹に戻ってきたのか話したの。
……
…………
………………
『そう……小雪さんは、お姉さんに会いにきたのね……』
サンは短くそう呟くと、なんとも言えない顔をした。
『うな……そうなの。英海に背中を押してもらって、ううん、トウとカアにも押してもらった。言われたのよ、”今でも前の飼い主さんの事が好きなんでしょう?” って。……確かにね、キライになんてなれないわ。それがたとえ……何十年も待ちに待ったその挙句、私の事を存在ごと忘れ去ってしまったとしても、…………それでもやっぱり大好きなのよ』
そう、好き、……大好き。
野良猫として生きてた頃、まだ生後間もなかった頃。
母猫とはぐれてしまってイチニャンぽっちになってしまった。
私は不安で恐怖を感じ、必死になって母の事を探したの。
道を行き交う大きな車に怯えつつ、
棒を振り上げ追いかけてくる悪童共から走って逃げて、
降り出す雨に体温奪われ身体を震わせ、
寒くて寒くてたまらなかった、
お腹が空いて辛くて辛くて泣いてしまった、
毎日毎晩オカアニャンを探したけれど、
兄弟達も探したけれど、
どこにもいないし見つからない、
そんな事をしているうちに、
いつしか私は歩く事もままならなくなっていた、
喉の渇きと空腹と、孤独と不安で気持ちも命も削られていく、
擦り傷だらけの肉球が、硬い地面に擦れるたびに痛みが走る、
もう……無理、歩けない、
もう……疲れた、立ってられない、
あの時私は限界だった、
何日も食べてない、何日も眠れない、身体に力が入らない、
朦朧として霞む視界、
にゃ……と思ったその瞬間、
地面が揺れて私は道に倒れてしまい、そのまま意識を失った、
が、すぐに、
身体中を刺されるような強い痛みに引き戻されて目が覚めた、
怖くて痛くて顔を上げるとまわりは真っ黒、
バサッ! バサッ! と不気味な音と、カァ! カァ! と身の毛もよだつ怖い声、これは…………カラスだ!
オカアニャンが前に言ってた、
仔猫はカラスに襲われるから見かけたら逃げなさいって、
どこかの陰に隠れなさいって、
逃げなくちゃ、隠れなくっちゃ、うな……でも動けないよ、
囲まれてるし、そもそも力が入らないから立ち上がれない、
痛いよ、怖いよ、オカアニャン助け……ああそうだ、
オカアニャンはいない、はぐれたんだもの、
もうダメだ、このままイチニャンぽっちで死んじゃうんだ、
…………と、すべてを諦めかけた時、
____こ、こらーーー!
____そ、そ、その猫ちゃんからはなれろーーー!
____わ、悪いカラスめ! ど、どっか行け!
____猫ちゃんをいじめるなーーー!
小さな、とっても小さな人の子が、
震えてるけど大きな声を張り上げて、走り寄ってきてくれた。
そう、それが私とお姉ちゃんの出逢いだったのよ。
最初のコメントを投稿しよう!