第一章 霊媒師こぼれ話_岡村英海

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◆ そうと決まれば急がなくっちゃ! 瀧澤建設(ココ)から会社まで徒歩と電車で数時間はかかるのだ。 定時出社は無理だとしても、なるべく早く到着したい。 空いたお皿と水筒を手に持って、事務所から母屋に向かうと、朝ゴハンの良い匂いが外にまで漂って、すでに起きているのだとホッとした。 ピンポーン! ベルを鳴らした数秒後、寝間着姿の社長が現れ「もう起きたのか!」とビックリされた。 続けて、 「ありがとな、無理言って悪かったな。ちょうど良い、朝飯は今出来たトコなんだ。一緒に食おう。で、客間に布団敷いてやるから寝てけばいいよ」 こう言ってくれたんだ。 ああもう、やっぱり社長は優しいな。 開口一発、”登録は終わったのか?” じゃなく、”ゴハン食べたら寝ていけ” だもん。 出来ればそれに甘えたいけど、そうも言ってられないのだ。 「ありがとうございます。えっと、まずは報告です。短縮登録はすべて終わりました。ミス登録はないはずですが、もし何かあれば連絡ください。それで……慌ただしくてすみません! 僕、これから会社に戻らなくちゃいけなくなっちゃって、このまま行きます! あとこれ、奥様にごちそうさまでしたってお伝えください! 2~3日したら僕から電話もしますから、バタバタしちゃってごめんなさい! じゃ!」 言いたい事をぜんぶ言ったら、そのままターンで後ろを向いた。 駅までダッシュの覚悟を決めて、地面を蹴って走りだす。 後ろからは社長が慌てて「だったら車で駅まで送る!」とか言ってたけど、社長だってこれから仕事だ、そういう訳にはいかないよ。 広い敷地をドドドと走り、立派な門扉で最後に振り向き、僕は社長に手を振った。 「ダイジョブデース! 僕の事はいいから、ゴハンしっかり食べてお仕事頑張ってくださいねー! あっ! そうだ忘れてた! 昨日の晩、伊藤さんが事務所に来たの! 登録手伝ってくれたんです! それで伊藤さんから社長に伝言預かってます! ”社長の元で働けて嬉しい” ”社長はお兄ちゃんみたい” ですって! あれ? なんかニュアンス違うな、でも大体合ってるはずだからいっか。……あともう少し何か言ってた気がするけど……スミマセン、忘れちゃったんで、あとは本人に聞いてくださーい!」 門扉を右に、再び走る僕の後ろでなにやら社長の叫び声。 「伊藤に会った!? そんなバカな! だって伊藤は去年の暮れに、」 ブォォォォン! その続きはエンジン吹かして過ぎ去る車に搔き消され、それ以上は聞こえなかった。 聞き返す時間がないから、また今度聞いてみよう。 今はとにかく出勤に全振りしなくちゃだからね!
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