第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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病院の帰り道。 自転車を漕ぐお母さんと私を抱えるお姉ちゃんが、なにやら色々話してた。 一体なにを話しているのか、当時は分からなかったけど、後から……本当に、随分月日が経ってから思い出し、時間差で分かったの。 あの日のお母さんは、 せっかく娘が助けた子猫を見捨てる事はできなかった。 だから治療を受けさせたけどウチでは飼えない。 誰か良い人に貰ってもらおう。 それまではウチで面倒みるけれど、情が移るといけないから名前をつけたりしない事、……と、そう言って、 それに対してお姉ちゃんは、 ぜったいヤダ! この仔はこんなに小さくて、ひとりぽっちでお外にいたの。 私にはママがいるけど、この仔にはいないみたい。 かわいそうだよ、きっとすっごく淋しいよ。 だから私がこの仔のママになってあげたい。 ねぇ、お願い、この仔を飼っても良いでしょう? 私、良い子にするから、勉強もお手伝いもいっぱいするから。 おこづかいもいらないしお年玉もいらないよ。 お誕生日もクリスマスもなくていいから、だからお願い、 そう言ってわんわん泣いて、お母さんを困らせたんだ。 その日の晩は、お姉ちゃんの家に連れて帰ってもらい、タオルを敷いた段ボール箱に寝かされた。 初めてだった、……雨風の心配のない温かな寝床。 外じゃないから車の音も聞こえてこないしカラスもいない、安心して眠れる寝床。 眠りにつく前、お姉ちゃんとお母さんがゴハンを持ってやってきた。 柔らかそうで良い匂い、一口食べればあまりに美味しく無我夢中で掻き込んだ。 途中でお腹がいっぱいになったけど、今食べなければ次はいつ食べられるか分からない。 だから無理して全部を食べた。 お腹が膨れてはち切れそうで、途端、強い睡魔に襲われた。 何日もまともに眠ってなかったし、歩き疲れていたのもあって、私を撫ぜるお姉ちゃんの手をぺろりと舐めた後……朝までぐっすり、一度も起きる事もなく眠ったの。
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