第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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ぐっすりと眠りについた翌早朝。 私は、ダンボール箱の中で目が覚めた。 カラスに突かれた傷は痛むが、歩けない程ではない。 昨日の晩にご飯をたくさん食べたおかげか、立ち上がってもフラフラしないし、耳も聞こえて目も見える。 良かった……これなら外に出されても、しばらくなんとかなりそうだ。 カラスに囲まれ突かれた時は、もう駄目だと諦めかけていたけれど……そうだ、それをあの子が助けてくれた。 小さな……とっても小さな人の子が。 …… ………… ……………… いつの間にか、私は二度寝をしていたみたい。 フカフカタオルが気持ち良くって、呑気に夢を見ていた時に…… 「パパァ! お願い! この仔を飼っても良いでしょう? こんなに小さいんだもの、外に出したら死んじゃうよ! またカラスに襲われちゃう!」 人の子の大きな声で目が覚めた。 猫は耳が良い。 だから、私はそんな大きな声に驚いて、箱の隅で小さく団子になっていた。 今のは……”小さな人の子” の声だ。 なにを騒いでいるのだろうと、ピコピコ耳を動かしてると……今度は別の静かな声が聞こえてきたの。 「ん……そんなにこの子を飼いたいの? でも、そう簡単に ”良いよ” とは言えないんだ。どうしてかって? それはね、猫に限らず生き物を飼うというのは大変な事だからだよ。この子には命があって、1度飼えば10年15年は一緒にいるんだ。その間、毎日毎日、1日も休まずに面倒を見なくてはいけないの、」 途中、「だいじょうぶ、ちゃんと私が面倒みるから!」大きな声が重なったけど、またすぐに静かな声がこう言った。 「そうか……お姉ちゃんが面倒を見るのか……でもね、その面倒が大変だ。確かに猫は可愛いけれど、可愛いばかりじゃないの。毎日のご飯の用意にトイレのお掃除、病気になったら看病も必要だ。それだけだって大変なのに、もしかしたら、どんなに愛情をかけてあげても懐いてくれない可能性もある。唸られたり引っかかれたりもするかもしれない。思ってたのと違くても、全然可愛くなくっても、途中で放りだせないんだ。だって猫はオモチャじゃない。”命” なんだもの。どんな時でも、どんな事が起こっても、最後まで大事にしてあげなくちゃいけない。それでも飼いたい? それでも面倒見てあげられる?」 静かな声はここで一旦押し黙り、部屋の中がシンとした。
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